「隠れホームレス」の生活描いた映画「フロリダ・プロジェクト」。舞台になった格安モーテルはその後どうなった? 繁忙期の宿泊料は3倍、姿を消した長期滞在客【2023アメリカは今】
日本人観光客も多く訪れる米南部フロリダ州の巨大テーマパーク「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」。そのすぐ近くにある実在のモーテルを舞台にした映画「フロリダ・プロジェクト」は、2017年に米国で公開されると、貧困問題の現実を表した作品として批評家から称賛された。全米各地では住居を確保できず、路上生活一歩前の状態に陥った「隠れホームレス」は珍しくない。記者は今年8月、映画のロケ地や国道沿いのモーテルを訪ねると、インフレで苦しむ人たちの生活があった。(共同通信ワシントン支局 金友久美子) ▽「夢の国」の裏で暮らすシングルマザーと6歳の少女 映画の主役は、夢の国ディズニー・ワールド近くの格安モーテル「マジック・キャッスル」で暮らす6歳の少女ムーニー。失業中のシングルマザーのヘイリーと2人暮らしで、お金に困り、たびたび週払いのモーテルから追い出されそうになる。そんな境遇でも、俳優ブルックリン・プリンスさんが演じたムーニーは、近所の友達といたずらざんまいの日々。遊びや冒険にたくましく駆け回る。貧困の現実とともに、生きることのまぶしい輝きを描いた。
独立系映画監督のショーン・ベイカーさんは、母親役にインスタグラムで見つけた服飾デザイナーのブリア・ビネイトさんを抜てき。モーテル暮らしの経験のある子も起用した。子役の使い方で定評のある是枝裕和監督の「万引家族」と比較されることもある。 映画の舞台となった「マジック・キャッスル」は実在のモーテルで、薄紫の外観がひときわ目を引く。2008年の金融危機をきっかけに、恒常的な住まいを確保できない「隠れホームレス」が増える中、その存在を知ってもらおうと、オーナーや住民らが撮影に協力したという。 ▽オーナーが代わり、モーテルは小ぎれいなホテルに 今年8月、別の取材の帰りがけに、マジック・キャッスルを訪ねた。映画公開以来、ロケ地を見て回る日本人向けツアーが組まれるほど、話題になった記憶があったからだ。 オーランド国際空港から車で30分ほどの場所には劇中で見覚えのある建物やプール、店舗が連なる風景があった。ところが、「マジック・キャッスル」は灰色に塗り替えられ、看板も「デベロッパー・イン」に。各部屋の扉の装飾や案内板も小ぎれいになっていて、雰囲気が一変していた。