デモクラシーは英国の難局を解決できるか 日本への示唆とは
欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット=Brexit)をめぐり、英国の政治が混迷を極めています。離脱期限は10月末まで延期されたものの、離脱協定案の可決のめどは立たず、メイ首相の辞任論が強まっています。議会制民主主義の先進国であり、議院内閣制の母国たる英国のこうした難局は、民主政に内在する矛盾の一つのあらわれだと、政治学者の内山融・東京大学大学院教授は指摘します。そして、英国の制度に影響を受けた日本の今後に示唆するものは何なのか。内山氏に寄稿してもらいました。 【図表】英国が陥った袋小路、EU離脱問題の経緯を振り返る
先行きの見えないブレグジット
ロンドンを舞台にした名作映画「メリー・ポピンズ」の続編「メリー・ポピンズ リターンズ」が、日本では今年2月に公開された。半世紀ぶりとなった続編では、前作で子どもだったバンクス家のマイケルが大人に成長しているが、彼は借金を返せず家を追い出されそうになる。打つ手がなく右往左往するその姿はまるで、先行きの見えないブレグジットで途方に暮れる英国人を暗示しているかのようである。 英国は議院内閣制の母国である。政治的リーダーシップが強く、政治が比較的安定している上、定期的な政権交代が起こるため、しばしば政治のあり方のモデルとされてきた。小選挙区制の導入や中央省庁再編を行ってきた1990年代以来の日本の政治・行政改革も、英国政治をモデルとしてきた面が強い。しかし、今の英国政治は混乱の極みにある。メイ首相はリーダーシップに欠け、その命運は風前の灯火である。国民もブレグジット賛成派と反対派で分断されてしまっている。こうした混乱の背景には、議会が国民の代表として決定を行うという議院内閣制本来の姿から逸脱して、国民投票という直接民主制的な仕組みに過度に依存してしまったことがある。 EU離脱は本来、今年の3月29日になされる予定だったが、与党保守党内から大量の造反が出て「離脱協定案」が議会で承認されなかったため、EUとの交渉により離脱期限が10月末日に延期された。メイ首相は離脱案が議会で承認されれば退陣する意向を示しているものの、先行きはかなり不透明である。5月17日にはメイ首相と労働党のコービン党首の会談が決裂した。6月上旬には離脱案が議会でまた採決される予定だが、野党労働党はおろか与党保守党内でも反対が強く、可決のめどは立たない。