米大統領選でガラリ…オバマ政権とトランプ政権から考えるイランとの関係 国際情報の専門家が分析
国際司法裁判所(ICJ)が5月24日、パレスチナ自治区ラファへの攻撃の即時停止を命じる仮処分(暫定措置)を出した。しかし、イスラエルは攻撃を継続し、国際社会から批判を浴びている。同19日には、イラン北西部東アゼルバイジャン州でヘリが墜落し、イランのライシ大統領らが死亡のニュースが報じられ、またサウジアラビアのムハンマド皇太子の来日が延期になったりと、中東をめぐる情報が身近なものになっている。 トランプ米大統領再選なら…ウクライナとガザに待ち受ける「不条理な結末」 そんななか、注目されているのが国際情勢YouTuberで「越境3.0チャンネル」を主宰する石田和靖氏。登録者数が20万人を超え、主に中東アラブ圏の情報を発信している。石田氏は「今ほど中東に注目すべきタイミングはない」と言う。著書『第三世界の主役「中東」 日本人が知らない本当の国際情勢』(ブックダム刊)から、一部抜粋・再編集で紹介する。 ◇ ◇ ◇ 中東問題を語るうえで、アメリカとの関係は無視できません。とくにイランはアメリカの政権によって関係が180度変わります。 国連加盟国のうち138カ国がパレスチナを国家として承認していますが(2021年時点)、日本では国として認めておらず「パレスチナ自治区」と呼ばれています。中東和平を考えるとき、パレスチナ問題は基本の「き」です。この問題が解決しない限り、第一次世界大戦から始まった中東の混乱は終わりません。 アラブの人たちが考えているパレスチナの大義とは、パレスチナ人が安な居住区で暮らせることです。至極真っ当な主張であり、この大義を最も重要視している国がイランです。それを脅かす存在であるイスラエルと、イスラエルを支援するアメリカをイランは許さないという構造が、大前提としてあるわけです。 驚くことにイランの国家理念には、「イスラエルを滅ぼす」という国是が含まれています。イランからすれば、イスラエルは聖地・エルサレムを奪った悪者であるという考え方です。 2023年3月、IAEA(国際原子力機関)は、イランの核施設で濃縮度が84%ほどの高濃縮ウランが見つかったと報告しています。イラン側は「意図しない濃縮が起きた可能性がある」と表明していますが、ウランの濃縮度が90%以上になると核兵器への転用が可能とされています。イランが核兵器を作ることのできる状況にある可能性は極めて高いわけですから、当然、イスラエルは危機感を覚えています。イランは、あくまで平和的利用で核を開発していると謳っています。実際、イランにはがん患者が多く、電気も足りていない。がん治療用の放射線治療や原子力発電のために核を開発しているという側面も、確かにあるでしょう。 こうした点から締結されたのが、2015年の「イラン核合意」です。当時の米大統領だったオバマ氏は、イランの言い分を受け入れました。「分かった。では、監視付きでイランの核開発を進めさせよう」と提案し、約束が守られていれば段階的に経済制裁を解除していくと理解を示したわけです。国連安全保障理事会の常任理事国であるアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国およびドイツの6カ国とイランは、こうしてイラン核合意を履行しました。 ところが、オバマ氏の後に大統領になったトランプ氏は、「イランは約束を守っていないのに、経済制裁が緩和されて財政が豊かになっていく。一方的にイランにとって都合のいい合意である」として、「イラン核合意」を離脱します。 トランプ氏とイスラエルは、イランに対して強硬な姿勢を取り続け、ついにはイランの脅威を抑えるために、前述したアブラハム合意を締結させます。イスラエルとアラブ諸国が対立していても、パレスチナ問題は解決しない。だったら、手を取り合うことで解決の道を探ろうというわけです。 「イランのような過激な考え方を持つ国があることはお互いにとっていいことではないから、ともに包囲網をつくろうじゃないか」 と提案し、暗礁に乗り上げていた中東和平を進めるべく、イスラエルとUAE、バーレーン、モロッコ、スーダンのアラブ4カ国は握手をしたのです。アブラハム合意で交わされた約束は、これまでイスラエルが進めていたパレスチナ、ヨルダン川西岸地区への入植をストップさせるものでした。イスラエル軍は、パレスチナ人が暮らすヨルダン川西岸地区へ勝手に入るや、パレスチナ人の住居やお店を強制退去させていました。「ここはイスラエルが都市開発をします。工場を作るから出て行ってください」。こうした理不尽な入植を、今後は一切やめるように伝えたわけです。