「ウクライナは白旗を」ローマ教皇“不可解な発言”の真相 過去の言動を調べると日本にも影響が及ぶトンデモない事実が
「アメリカ嫌い」の指摘
教皇の発言を敷衍すると、「キリスト教徒」か「ロシアの伝統に従っているロシア人」は残虐な兵士ではないことになる。ロシアを擁護した発言と解釈することは可能だが、この時はロシア側が猛抗議した。そのためウクライナやNATO加盟国から批判の声が上がることはなかった。 だが次の舌禍に対しては、ウクライナは明確に反発を示した。23年8月、教皇はロシアのサンクトペテルブルクで開かれた若年層の集会にオンラインで参加。そこで行われた講話でピョートル大帝やエカテリーナ2世といったロシアの王族に触れ、「偉大なロシア帝国の後継者であることを忘れないように」と呼びかけたのだ(註2)。 ロシアのプーチン大統領はピョートル大帝を引き合いに出し、ウクライナ侵略を正当化してきた。これを教皇が追認する形になったのだから、ウクライナが強く抗議したのも納得できるだろう。 「教皇の『ウクライナ戦争の場合、象徴的な善人も悪人もいない』の発言は、アメリカの経済紙『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』が注目し、22年6月に記事を配信しています。記事では多くの専門家に取材し、アルゼンチンで生まれ育った教皇はアメリカの経済支配を経験したことで、『超大国は悪だ』という考えが植え付けられたと指摘。教皇はアメリカを筆頭とする西側諸国と距離を置き、独自外交を目指してロシアや中国との関係構築を重視しているのではないか、と分析しました」(前出の記者)
バチカンと中国が急接近
日本人にとって、バチカンと中国の接近は他人事ではない。多くの日本メディアが詳報を行っている。ここでは時事通信が23年9月に配信した「ローマ教皇特使が異例の訪中=「国交樹立」観測も浮上」との記事を見てみよう。 《フランシスコ・ローマ教皇のウクライナ和平特使を務めるズッピ枢機卿が、中国を訪れた。公式には「中国政府高官とウクライナ問題を協議した」と説明されているが、外交関係のないバチカン(ローマ教皇庁)の特使訪中は異例。台湾と断交して中国との国交樹立に踏み切る第一歩ではないかとの見方も出ている》 中国は教皇だけが司教を任命できるという制度を「内政干渉」として反発。1951年にバチカンと断交を行ったという経緯がある。 「カトリック教会は全世界で数多くの司教が性暴力を振るっていたことを筆頭に、その暗部が次々に暴かれ、依然として激震が続いています。信者の信頼回復を完全に果たせたとは言えず、対応に悩む教皇にとって14億の人口を持つ中国は信者増員という観点から非常に魅力的です。中国と断交してきたことで、バチカンは台湾との関係を重視してきました。ところが今の教皇フランシスコになってから、『バチカンは台湾を捨て、中国と国交を樹立するのではないか』との観測が台湾で飛びだし、政府も非常に憂慮しているのです」(同・記者)
中国と何を話したのか?
こうなると、ウクライナ戦争の停戦交渉はバチカンと中国が会談するための“口実”だという疑念すら生じてしまう。本当は中国との国交樹立が最重要事項であり、ウクライナ問題は二の次ではないのか──。 いずれにしても、一つだけ言えるのは、これだけロシア寄りの教皇にウクライナが停戦交渉を依頼することは絶対にない、ということだろう。 註1:ロシア、ローマ教皇の平和への努力を称賛 「白旗」発言受け(AFP BB News:3月14日) 註2:「偉大なのは帝国主義ではなく文化」 ロシア「称賛」発言、ローマ教皇が釈明(朝日新聞:23年9月5日夕刊) デイリー新潮編集部
新潮社