自動車メーカーに潜む「尖閣リスク」 南シナ海では中国海警局の暴力が横行、安全保障問題だけとして捉えてはいけないワケ
中国進出企業に潜むリスク
今後も米中の間では貿易摩擦が確実視されるなか、大手自動車メーカーなど日本企業は積極的に中国ビジネスを展開している。 【画像】えっ…! これが50年前の「魚釣島」です(計12枚) 4月下旬、トヨタ自動車は北京モーターショー2024での記者会見で、中国インターネット大手テンセントと戦略的な提携関係を強化すると発表した。トヨタ自動車は4月上旬にも、中国国有資源大手の中国五鉱集団と電気自動車(EV)など、電動車の使用済みの車載電池の再利用で協業することを発表し、現地に合弁会社を設立する予定となっている。 ホンダも4月、中国市場へ新たに投入する新型EVモデル「イエシリーズ」を発表した。今回はイエP7、イエS7、イエGT CONCEPTの三つのモデルを公開したが、今後は中国において2027年までに6機種の投入を予定するという。2023年、二期連続で過去最高を更新したいすゞ自動車も中国事業からの撤退は検討しておらず、今後もパートナーと協力し事業拡大に向け活動していくとの方針を示している。 今後、日中の間で大きな政治的問題が生じなければ、脱中国依存を進める動きもあろうが、こういった日本企業の日常的な中国ビジネスは中長期的に続いていくだろう。しかし、大手自動車メーカーを中心とする中国進出企業には注意するべき安全保障上のリスクがある。それが 「尖閣リスク」 だ。
緊張高まる南シナ海
5月10日、海上保安庁の巡視船が沖縄県石垣市・尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域で中国海警局の船4隻が航行しているのを発見した。尖閣諸島周辺で中国海警局の巡視船が確認されるのは 「141日連続」 となり、海上保安庁は日本の領海に近づかないよう警告したが、巡視船の1隻は機関砲のようなものを搭載したという。 5月1日にも機関砲のようなものを搭載した巡視船が目撃されている。尖閣諸島周辺で日中のにらみ合いの神経戦が毎日のように続いているのだ。 だが、尖閣諸島とそれほど距離が遠くない南シナ海では、もっと強い緊張が続いている。4月末、フィリピン・ルソン島沖のスカボロー礁近海を航行していた複数のフィリピン船が中国海警局の巡視船から強力な放水銃を浴びせられ、船舶の金属部分や装備が剥がれたり曲がったりするなど大きな損傷を負った。3月には、中国海警局の巡視船が南シナ海にあるフィリピン軍の拠点に補給物資を運搬しているフィリピン船の航行を妨害し、故意に衝突した後に放水銃を発射するなどし、乗組員4人が負傷する事件が起こっている。 もっと深刻なケースでは、2019年6月、フィリピン漁船が中国漁船に衝突されて沈没し、海に投げ出されたフィリピン人の乗組員22人が近くを航行していたベトナム船に救助される出来事があった。 フィリピン政府はその後、外交ルートを通じて中国側に厳重に抗議した・フィリピンと同じく南シナ海で中国と領有権を争うベトナムも、自国の漁船が中国船から故意に衝突を受けて沈没したり、魚介類や機材などを強奪されたりする事件を経験している。