最強の源氏物語オタが見抜いた「物語」の役割、「書は人間に必要」を示したまひろ最後の物語【光る君へ】
道長のためだけに物語を紡ぐまひろ…『光る君へ』らしい落としどころ
かように「実は政治的思惑に動かされていた平安女流文学」のエグさを見せてきた『光る君へ』だったが、最後の最後にまひろが道長のためだけに物語を紡ぐことで、文学は人を教え、導き、時には救い出す、まさに「水や米と同じぐらい大事」な存在であるということを見せつけるのは、さすが「文学大河」をうたう『光る君へ』らしい落としどころだった。現代最高の作家が、自分のためだけに作った物語を語ってくれるなんて、道長の「まひろLOVE」を抜きにしても、至福の時間だったはず。 その物語を明日も聞きたいという気力で、道長は晩秋から真冬までを乗り越えることができた。きっとそのときに見ている夢も、自分がこれまで犯してきた罪を見せつけられるようなものではなく、「身分を捨ててまひろと一緒に生きる」人生がどういうものかを想像する、まさに夢のような時間だったのではないかだろうか。道長がおだやかな顔で逝けたのも、まひろの物語が道長を照らす最後の光となっていたからだ・・・と思いたい。 そして女性の文学が注目される時代は、武士の時代の到来とともに完全に終えんし、女性が作る歌や物語が再び日本文化のなかで脚光を浴びるのは、与謝野晶子や樋口一葉などが登場する大正時代まで待たねばならない。800年にもわたって「失われた時代」がつづいていたことに改めて愕然とするけれど、道長全盛期のわずか10数年の間にあれだけの文学作品が生まれたことが、日本史のなかの奇跡中の奇跡だったのかもしれない。 ◇ 12月29日には『光る君へ』総集編(全五巻)が午後0時15分から放送される。次の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』は、横浜流星主演で、江戸時代のメディア王・蔦重こと蔦屋重三郎の波乱の生涯を描く。2025年1月5日から、NHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート(第1回の放送は15分拡大版)。 文/吉永美和子