【毎日書評】がんばっているからこそ響くことば。トップリーダーの座右の書・佐藤一斎『言志四録』
佐藤一斎は、江戸時代後期から幕末にいたる、激動の19世紀前半の日本を生きた武士にして儒者であり、最終的には幕府の教学政策の責任者となった人物だ。 そしてその主著である『言志四録(げんしろく)』は、彼が就寝前につけていた「瞑想記録ノート」を整理して出版したものであり、内容的には19世紀前半の日本が生んだ『自省録』といってもいい。(「はじめに 佐藤一斎と『言志四録』について」より) 『言志四録 心を磨く言葉』(佐藤一斎 著、佐藤けんいち 編訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の冒頭にはこう書かれています。同書は以後も書き継がれてシリーズ化され、一般には4冊あわせて『言志四録』と呼ばれることに。リーダーのための修養書、人生の指南書として、200年にわたり読み継がれてきたのです。 彼はまた、儒学の研究者として江戸時代の日本儒学の最後を締めくくる人物でもあったそう。3000人を超えるといわれる弟子たちを通じ、近代日本の知的基盤をつくりあげた教育者でもあったというのです。 ところが、日本以外で取り上げられることがほとんどなかったのも事実。つまりは“日本ローカル”だったわけですが、日本人にとってその存在はきわめて大きかったようです。 「近代」が終わって次の時代への長い移行期にある現在、おなじく前近代から近代への移行期に生きた彼の言葉に学ぶべきものは多い。こういった観点から、あらためて読んでみることが必要ではないだろうか。(「はじめに 佐藤一斎と『言志四録』について」より) こうした観点に基づいてまとめられた本書のなかから、きょうはVII「仕事をどう進めるか」に焦点を当ててみたいと思います。
いま目の前にあることをおろそかにしない
目の前にある仕事をおろそかにし、先々のことばかり心配する人が少なくないと著者は指摘しています。それは旅人が行き先のことばかりを気にしてそわそわしているようなもので、はなはだよろしくないとも。 いま目の前にあることを、きちんと処理すべきである。家にいて仕事をしていないときも慎み深く、仕事をする際には相手を敬い、つねに言行一致をこころがける。 寝るときも死人のように爆睡せず、家に居るときはゆったりとくつろぐ。食事中でも、あわただしいときでも、とっさの瞬間においても、ただしいあり方を忘れてはならないのである。(105より) 大切なのは、いま目の前にあることをうまく処理し、ちょうどよい具合に仕上げること。そうすれば、過去も現在も、あるべき場所に落ち着くのです。(105より)