ファッション好事家たちが耽溺する 「人生の相棒5番勝負」──Vol1.澤田一誠 vs 栗原道彦 (前編)
人生の相棒5選について大いに語ってもらう新連載「人生の相棒5番勝負」がスタート。記念すべき第1回目は原宿の“ミスター乱暴者”こと「フェイクアルファ」の店長 澤田一誠と、日本有数のヴィンテージバイヤーで、「ミスタークリーン」のオーナーである栗原道彦が登場。前編は澤田の相棒に迫る! 【写真の記事を読む】人生の相棒5選について大いに語ってもらう新連載「人生の相棒5番勝負」がスタート。アイテムの写真をチェック!
50s特有の不良感漂うアイテムは昔から大好き(澤田)
ファッション好事家の愛は一途だ。愛用歴20年戦士も珍しくないほど、一度惚れ込んだアイテムを大事に使い続ける人が多い。本連載では、毎回ふたりのファッション好事家を迎え、人生をともにする愛用品について語ってもらう。日本が誇るヴィンテージ界の旗手に、渾身のアイテムを披露してもらった。 すべてはここから始まったデュラブルのレザージャケット 栗原 昔から知り合いではあったものの、こうしてじっくり話すのは初めてで、ちょっと緊張しています(笑)。今日はよろしくお願いします。 澤田 何か変な感じですね(笑)。こちらこそよろしくお願いします。では僕の愛用品からお見せしますね。 澤田 まず、俳優のマーロン·ブランドが映画『ワイルドワン』(1953年)で着ていたとされているデュラブルのジャケットです。何着か持っていますが、これは最初に手に入れたものなので思い入れがあって。 栗原 澤田さんといえば“これ!”という感じですね。ひと昔まえまで、劇中でマーロン·ブランドが着用していたのはショットのワンスターという説もありましたよね。 澤田 そうなんです。ただ僕は、10代の頃からショットではないということはわかっていました。というのも、ショットだとすると、ジッパーの位置や長さがちょっと違うんです。ずっとどこのブランドなのか疑問だったのですが、僕が「フェイクアルファ」に入社した1996年に、お店にデュラブルのジャケットがあって。そのときにわかりました。 栗原 そんなに前からご存じだったんですね。 澤田 仕様違いが何パターンかあって初期、中期、後期と分かれています。ちなみに、劇中で着ているのは初期に近い中期ぐらいのものだと思います。エポーレットの形やベルトの位置などが微妙に違います。 栗原 そうだったんですね。ちなみにこの情報は、アメリカ人ディーラーたちも既に知っているんですか? 澤田 結構知られてしまっていますね。 栗原 自分の首を絞めるといいますか(笑)。 澤田 そうですね。内緒にしておきたい気持ちはあるんですけど。でも売っている立場としては、そうもいかないので複雑です(笑)。 澤田 ペニーズはただのデパートブランドだったので、様々な衣類を販売していました。どれも一般的なデザインでしたが、ファラオジャケットに関してはセンスが良いんです。袖にジップポケット、あと隠しスナップボタンがついているなど気に入っています。これは50年代のものです。 栗原 袖のジップデザインはペニーズだけの仕様ですか? 澤田 このタイプだけですね。最初は小銭とか入れて、バイクにまたがったまま支払いができるようになっているのかなと思いましたが、アメリカはフリーウェイだとお金を払わない。そうなると何のためにあるのか。ただまあ、デザイン的にかっこいいのでいいかなと。 栗原 たしかに不思議ですね。ちなみに、どこまでがファラオジャケットと呼ばれているんですか? 60年代に入ると似たようなジャケットが色々出てくるじゃないですか。 澤田 ロング丈のスタジャンなどまさにそうですよね。線引きが難しいところですが、個人的には不良っぽさが漂うデザインのものはファラオジャケットで、それ以外はスタジャンやカーコートという認識ですね。 気分はさながらロカビリースター 栗原 またすごいジャケットですね。 澤田 ハリウッドジャケット、もしくはナッソージャケットと呼ばれるものです。以前「スペックス」で購入しました。ナッソージャケットではカーメルが有名ですが、これはウルヴァリン バイ ビトーというブランドのものです。 栗原 もともとハリウッドとかで使用されたコスチューム系の服なんですか? 澤田 そういうことでもないと思います。50sのジャケットの中には、平日に学校へ着ていくような落ち着いたデザインのものもあって、これはおそらく週末のパーティーとか、ちょっとめかしこんで行くときに、着ていたのかなと思います。ステージ衣装にも選ばれたのかな。 栗原 澤田さんはどんなときに着られますか? 澤田 ロカビリースターみたいになってしまうので、普段着としては着ません。ただ、結婚式やパーティーの時などは着たりします。 澤田 先ほどのナッソージャケットとセットではなく、別々で見つけたものです。通称「ヴィンセントパンツ」と呼ばれているもので、サイド部分がV字に割れていて、側章とプリーツを使用したデザインが特徴です。 栗原 ファラオジャケットと同じく、この呼び名にも由来があるんですか? 澤田 そうですね。これはジーン·ヴィンセントというロカビリーアーティストが穿いていたことから、この名前がついたとされています。ただエルヴィスも色違いで穿いていたらしいですが、なぜかエルヴィスでなく、ヴィンセントパンツと呼ばれています。 栗原 この手のアイテムは50s系に強い極一部のディーラーが持っている程度で、アメリカでも全然見つからないですよね。 澤田 そうなんです。これは、コンディションがあまり良くなかったのですが、ブラックでマイサイズとなるとなかなか出ないので購入しました。最近では、ワコマリアやピンクドラゴンなどのブランドから復刻モデルも出ています。 澤田少年が憧れたイギリスパンク·ロックの代名詞 澤田 ラロッカというイギリスのブランドのベストです。アメリカブランドがメインですが、イギリスもロッカーズが好きなので、選ばせていただきました。これは10代のときに憧れていたけど買えなかったジーンベストと呼ばれるものです。 栗原 いま着てらっしゃるのと同じですよね? 澤田 そうです。十代の頃はラロッカを買いたくても売っている店がなくて、これもなかなか手に入らなくて。いまだから市場に出回っているという感じですね。革ジャンの上から着るのが定番ですが、夏場はTシャツの上から着たりしています。 栗原 この2つ、よく見るとタグの位置が違いますね。 澤田 そうなんです。前期と後期とあるみたいで、ジップつきが前期で、ジップなしが後期。ともに80年代製です。 栗原 ほかにイギリスものはもっていますか? 澤田 ルイスレザーなど、革製品がメインですね。ライダース(ロンジャン)はもっています。比重でいえば最近はイギリス製の方がよく着ているかもしれませんね。以上が僕の紹介になります。 栗原 ありがとうございました。アイテムの歴史的背景や、ご自身の経験を踏まえた説明を目の当たりにして、このあと紹介させていただくのに正直ビクビクしています。大丈夫かなおれ……(笑)。 栗原さんの相棒紹介は後編で明らかに! 乞うご期待! 澤田一誠 大阪府出身。1996年に「フェイクアルファ」に入社。同店は、1940~50年代のヴィンテージの品揃えでは他の追随を許さない原宿の名店だ。テレビ東京系『開運! なんでも鑑定団』では鑑定士も務める。 栗原道彦 千葉県出身。日本有数の古着バイヤー。1年の約1/3は渡米。栗原氏がピックした珠玉のアイテムは富ヶ谷「ミスタークリーン」で購入可能。安いきれいかっこいい古着しかない、古着ラバー悶絶の店。
写真・箱島崇史 文・オオサワ系 編集・高杉賢太郎(GQ)
【関連記事】
- 【写真の記事を読む】人生の相棒5選について大いに語ってもらう新連載「人生の相棒5番勝負」がスタート。アイテムの写真をチェック!
- 革ジャン、ジーンズ、エンジニア、バイク。原宿の“ミスター乱暴者”が静かに情熱を注ぐ、古き良きアメリカ──特集:2024年秋冬、新しいアメリカン・ファッション
- 日本初上陸! 「Inspiration Tokyo」に行ってきた──ベルベルジン・ディレクター、藤原裕「ヴィンテージ百景」
- 古着のカバーオールをさらに深堀り。ヴィンテージで狙い目のブランドとは?──ベルベルジン・ディレクター、藤原裕「ヴィンテージ百景」
- ファレルが惚れ込んだアーカイブクオリティ──流通の壁を「カサノバ ヴィンテージ」が壊す日