女子レスリング48キロ級で登坂が2連覇 その意義とは?
その日本の女子が行っている独特の強化方法は、過去に何人もの世界チャンピオンと五輪金メダリストという結果を出している。ところが反面、今回の登坂のように五輪を3連覇している吉田沙保里や伊調馨に比べて名前と実力が浸透しない。そのためランキング1位の座を銀メダリストへ譲り渡すことになった。 2連覇をしないと、本当の世界一として認められない。初優勝した昨年の大会にスタドニクは産休で出場していなかった。世界ランキングについて直接、登坂から口に出すことはなかった。しかし「少しでも近づきたい」(登坂)と願う世界14連覇の吉田のようになるため、ランキング1位のスタドニクが出場してきた今回の世界選手権で優勝することに大きな意味があったのである。 だが、決勝の相手は、そのスタドニクではなく格下のマトコワスカ(ポーランド)だった。登坂は「ポーランドの選手は、去年も世界選手権で見ていて強いなと思っていたので、気を抜かずにいきたい」と、決勝戦の対戦相手が決まった直後には、落ち着いてそう語っていたが、気持ちの切り替えが難しかったのか、1分30秒に2点を先制されたのである。それは1回戦から3試合連続でフォール勝ちしてきた同じ選手とは思えない動きだった。 「小学生みたいなタックルから点を取られたけれど、失点がかえって落ち着かせてくれたかもしれない。登坂は心が強い。芯が強い選手だね」とは、セコンドについた栄和人強化委員長の回想。だが、そこから得意のタックルを軸にした攻めで逆転勝利。終わってみれば10-2の快勝だった。「スタドニク選手と直接、試合は出来なかったけれど、その選手に勝った選手に10-2と大差をつける戦い方ができてよかった」(登坂) 「勝ち続けること」は、世界のレスリングで何よりも尊敬を集める。五輪でメダルを取ることよりも、ときには評価が高い。日本のレスリングの歴史を振り返ると多くの世界チャンピオンや五輪金メダリストがいるが、なかでも1970年代に世界選手権を5度、モントリオール五輪で金メダルに輝いた高田裕司は今でも名前が知られる存在だ。 今大会では高田が監督をつとめる山梨学院大学から2人の選手がフリースタイル代表としてマットに立ったが、彼らの紹介として、わざわざ場内アナウンスで高田の名前が差し挟まれた。レスリングに詳しいウズベキスタンの観客にとっては名前だけで通じる日本人であり、連覇が難しい軽量級で勝ち続けた選手として30年以上経つ今でも語り継がれる存在になっている。 次に発表される世界ランキングでは、おそらく登坂が1位になるだろう。高田、吉田、伊調に続く、世界の伝説のレスラーの一人に、21歳の女子レスラーが加わろうとする道が、2連覇した今、タシケントから始まった。 (文責・横森綾/フリーライター)