異様なまでの自主性の高さは堀越の強み・主将MF10中村健太が語った選手交代の真相
「練習通りでした」 第102回全国高校サッカー選手権東京予選のBブロック準決勝前半7分、見事な無回転フリーキックを決めた堀越MF14仲谷俊。 【フォトギャラリー】堀越vs日大三 「ゴールに直接、結びつけないフリーキックが多かったので、トレーニングを続けていました。練習通り」と会心の笑みを浮かべた。 仲谷はキックだけではない。 4‐4‐2の2トップで起用された仲谷は前線に顔に出したかと思えば、時に中盤に下がり、守備をしながらも、スペースを回遊し、ここぞのところで軽くポンと足先でパスを繰り出せば、ことごとくチャンスに。サッカーの勘どころを弁えている。 先発フル出場。誰が見ても好調そのものだが、仲谷、そして佐藤実監督も口を揃え「コンディションはまだまだ」というから驚いた。 仲谷は昨年、中学の時から痛めている手首と疲労骨折した右足の甲を同時期に手術。 約10か月、治療とリハビリにあてた。仲谷によれば半年間、ほぼなにもサッカーができなかったそうだ。それだけプレーできている喜びが仲谷の力になっている。 プレーだけではない。「(仲谷は)元気がいい選手。元気なのはとても大事。(劣勢のとき)みんなにいけるよと、根拠のない自信があったほうがいい」と佐藤監督。明るさもプラスになっている。 そのなか、気になったのが2‐0で迎えた後半8分。堀越はDF3森章博からDF13渡辺冴空(さく)に交代したこと。 DF13渡辺について佐藤監督は「対人が強く、スピードもあり、競り合いにも強い選手。勇気あるというよりも無謀なぐらいなので、そのほうが跳ね返すにはわかりやすい」と残り時間を戦う選手へのメッセージの意味合いがあった。 ただ、この交代。実に奇妙だった。はじめは負傷交代かと思われたが、そうでもなさそう。気になり理由を聞いて、驚いた。これは監督ではなく、選手からの判断だった。 佐藤監督は進言した主将MF10中村健太とのやり取りを語った。 「(渡辺)サクを出してくださいとありました。『(DF3 森が)ボールをとりきれてなく、どこか弱気になっている』と。『じゃあ、きょうはサクだな』と決めて、替えました。監督として異論はありませんでした」 この中村の判断、その場の思い付きではなく、実に練られていた。「きのうの夜から(選手交代など)どのタイミングにするか、いくつかのパターンやプランを考えていましたし、チームメイトにも相談しました」という周到ぶり。さらに「(DF3森の)プレーはいつもより良くなかったように感じました。なので思い切って替えてみよう」という決断の過程。 また中村は後半16分、ベンチに下がったが、これも自身の考え。「両足のふくらはぎがつってしまったので、自分がピッチにいてもチームの役に立たないと判断しました」。この大事な状況、我が身可愛さに走ってしまうが、滅私奉公、フォアザチームに徹していることがわかる。 「いま何を求めているのか、この時間で何を求められているのか。ベンチからは細かい修正や選手がやりすぎてしまうと『いまはこうじゃないから』と提示するくらいですね」と佐藤監督。 この異様なまでの自主性の高さは堀越の伝統であり、今大会、決勝まで勝ち進んだ原動力となっている。 (文・写真=佐藤亮太)