レアル・マドリードが通算15回目の優勝。福西崇史が解説するCL決勝の勝敗を分けたポイントとは?
その膠着状態を破ったのは、やはりセットプレーでした。後半38分にMFトニ・クロースのCKからニアでDFダニエル・カルバハルが合わせてマドリードが先制。このシーンの前にもいくつかCKがありましたが、クロースのキック精度がとにかく高く、蹴るたびに微調整をしてタイミングやポイントがどんどん合ってきていました。 先制後にも同じようにCKからDFナチョへピタリと合わせていて、まるで精密機械のようなキックでした。 そして先制点から10分後にDFイアン・マートセンの横パスをMFジュード・ベリンガムがカットし、最後はヴィニシウスが冷静に決めて2-0。ヴィニシウスのシュートは狙ったものかはわかりませんが、バウンドさせるようなキックでGKグレゴール・コベルはタイミングを外されて反応が難しくなりました。 ああいったボールをやや上から叩いてバウンドさせるキックは、マドリードのOBでもあるメスト・エジルが得意としていましたが、あれを利き足とは逆の左足で意図してやったとしたらとんでもないスーパーゴールだと思います。 マートセンのパスミスはベリンガムの位置が見えていなかったのかもしれませんが、それにしてもマドリードを相手にあれだけの致命的なミスをすれば、失点は免れません。終盤の2失点目は痛恨でした。 先制してからマドリードは相手が出てくるのに合わせてやり方を変え、ペースを握っていったので試合巧者ぶりはさすがのひと言。それでもドルトムントは先制されたあとから攻撃のカードを次々に切って攻勢に出て、オフサイドにはなったものの一度はネットを揺らしたので、ファイナリストとしての意地や力は見せていたと思います。 勝負をわけた先制点のCKのキックの質はもちろんそうですが、全体を通してクロースのクオリティはMVP級でした。ビルドアップではセンターバックの脇に下りてボールを引き取り、ドルトムントのハイプレスを効果的な縦パスやサイドチェンジのパスを織り交ぜて、難しい展開をうまくコントロールしていました。ボールの回し方、味方へボールを渡すタイミングは本当に見事でしたね。 クロースに並んでベリンガムのクオリティも際立っていました。中盤でボールを受けて起点を作れるし、そこからパサーにもなれるし、突破をすることもできる。それから2列目から裏へ飛び出して高さを生かしたフィニッシャーとしても脅威でした。ゴールにはなりませんでしたが、後半24分のヴィニシウスのクロスからベリンガムが飛び出して合わせにいったのは、まさに彼が得意とする形でした。 大会を通じてマドリードの勝負強さは驚異的でしたが、準々決勝や準決勝の前にはリーグで余裕を持ってターンオーバーができる状況だったことは、シティ戦やバイエルン戦で優位に働いたところもありました。いずれにしても通算15回の優勝は圧倒的な数字で、改めてこの大会の盟主であることをマドリードが見せつけた今大会だったと思います。 構成/篠 幸彦 撮影/鈴木大喜