「今後も俳句、現代詩に挑戦」 中也賞の贈呈式で佐藤さん(東京)喜び語る【山口】
第29回中原中也賞の贈呈式が29日、山口市湯田温泉3丁目のユウベルホテル松政で行われ、詩集「渡す手」(思潮社)で受賞した俳人、佐藤文香さん(38)=東京都=に中也のブロンズ像などが贈られた。佐藤さんは「これからも各ジャンルの特性を意識しながら、日本語による表現に挑戦していきたい」と喜びを語った。 受賞作は、88㌻に24編を収録。俳句由来の季語と体言止めの多用、通常とは異なる語順や句読点の用法、散文風を交えるなど、豊富な言葉と表現の多彩さを特徴に持つ。 佐藤さんは兵庫県神戸市生まれで、父は日本語学者の佐藤栄作。1997年に愛媛県松山市に転居し、中学時代に俳人、夏井いつきさんの授業を受けたことを機に句作を始めた。松山東高では第4回俳句甲子園で優勝。早稲田大第一文学部に進学後、俳句研究会へ所属。これまで四つの句集を発表し、2009年の宗左近俳句大賞など多数を受賞した。14年に詩作を始め、16年に雑誌「現代詩手帖」で連載した6編を含む昨年刊行の初詩集で中也賞を射止めた。 贈呈式では、今回から5人中4人が代わった選考委員が初めて顔をそろえ、それぞれ佐藤さんをたたえた。選考委員代表の詩人、蜂飼耳(はちかい・みみ)さんは「花筏(はないかだ)などの季語がキラッと光るように作中に現れる。言葉の感覚や扱い方が独特で、明るさや朗らかさもある。言葉を扱うことをさまざまな場で鍛錬していると感じた」と評した。 受賞あいさつで佐藤さんは、選考会での評価を引き合いに中也の詩から詩と俳句における体言の扱い方の違いを考察。「俳句の現場から足を踏み出さなければ、言葉を重ね、揺らすことで新たな音やリズムが生まれる面白さに気付けなかった。詩を書き、詩集をつくり、批評されることで自分の詩と俳句に新たな視点が加わった」と日本語で表現することへの思いを新たにした。 式典後の記者会見では、詩「森と酢漿(かたばみ)」の詩集の帯文と表紙への起用や「渡す手」という題名は、編集者の藤井一乃さんのアイデアだと、感謝を述べた。「俳句と現代詩、あるいは日本の現代詩と世界の詩をつなぐ役割を担ってほしいという期待だと受け止め、今後もやっていきたい」と笑顔を見せた。 中原中也記念館では佐藤さんの受賞を記念し、同人誌や過去作品を展示。受賞当日の様子が伺える思い出の1点もある。5月26日まで。