【夏の甲子園】広陵の試合の流れを変える控えの「仕事人」たち 背番号10のサウスポー、代打や足のスペシャリストも
【どんな場面で出ても気負わない控え選手】 この2年間、広陵を牽引してきたのは高尾と只石のバッテリーであることは間違いない。しかし、チームを支えるのは控え選手の"準備力"だ。 中井監督も「みんな大胆に、いい仕事をしてくれる」と感心する。代打の切り札の松村は言う。 「(熊本工業戦のツーベースは)厳しい試合だったので自分が打ってやろうと、その気持ちで打ったヒットです。事前に相手のピッチャーのデータや特徴を頭にしっかりと入れて打席に立ち、甘い球を絶対に逃さないという気持ちで、自分のスイングをするようにしています」 中井監督は「松村が打てるのは何も考えてないからでしょう(笑)」と言うが、準備がなければ初対戦のピッチャーを打つことはできない。 9回裏のピンチで伝令に出て、選手たちを鼓舞したのも松村だった。 「中井先生には『堂々と投げろ』と言われたので、それをみんなに伝えて、『これまでやってきたことは正しいからそれを出そう』とみんなに声をかけました。エラーからのピンチでしたが、みんなの気持ちは切り替わっていました」 9回表に代走で起用された走りのスペシャリストの空は、自分の足に自信を持っている。 「大事なところで代走がある、と思って準備をしていました。どんな場面で出ても気負うことはありません。打球の判断にも自信があります。30m走のタイムは、チームで一番速い3.81秒です。スクイズの場面、得点にはなりませんでしたが、スタンドが沸いたのはわかりました」 途中出場の選手が力を発揮する秘訣について、中井監督はこう言う。 「これまで一緒に練習をしてきて、子どもたちの一人ひとりの性格もわかるし、それによってかける言葉も変わってきます。今日は監督が、ぶち(広島弁で「とても、すごく」の意味)冴えとったですね(笑)」
【エースを奮い立たせる背番号10】 熊本工業戦では出番はなかったが、控えには山口大樹がいる。広島大会決勝の広島商業戦、3-1とリードして迎えた8回表に、ツーアウト満塁の場面で高尾をリリーフして勝利を呼び寄せた。 「『絶対に抑えてやる!』という気持ちでマウンドに上がりました。勝ったあとに中井先生に『ナイスピッチング!』と言われて自信がつきました。 高尾が1年生から試合に出ていたので、自分も『同じところで早く投げたい』と思っていました。悔しい気持ちが、自分が成長できたひとつの要因だと思います」 背番号10をつけたサウスポーの成長は、高尾にとって刺激になっているはずだ。 「絶対に山口にはマウンドを譲らんぞ、というピッチングでしたね」 サヨナラ負けのピンチを脱した高尾について、中井監督はそう語った。一方で、キャッチボールをしながら登板に備えていた山口は言う。 「もし高尾が打たれても、『絶対に自分が抑えてやる』という気持ちで準備をしていました。かなり気合が入っていましたね。最後の場面、『投げたい!』という気持ちが強かったです。次の試合で投げる機会があれば、チームに流れを引き寄せるピッチングをしたい」 大会10日目の8月16日、広陵は東海大相模(神奈川)と対戦する。初戦と同じく厳しい戦いが予想されるが、広陵のベンチには黙々と出番に備える"仕事人"たちがいる。 プランどおりの展開にならない時こそ、頼りになる男たちが試合の流れを変えるはずだ。
元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro