2014年のテレビを振り返る(1)── ネットとテレビ報道の関係が大きく変わった 水島宏明
個人視聴の普及で「スマホでテレビ」の時代に?
一方で、テレビ番組を通勤や通学の途中などで見る、という時代がすでにやって来ています。今年、各テレビ局はこぞって「見のがし視聴」サービスに力を入れるようになりました。評判のドラマやドキュメンタリーなどを「ネット上で」有料あるいは無料で見られるようなサービスを充実させるようになっているのです。 私が大学で教えている学生たちには「自宅にテレビはありません」「テレビ番組はスマホで見ています」という人も少なくありません。これは多かれ少なかれ若い世代の傾向で、テレビ番組を「従来のテレビ受像機で自宅で見る」という視聴形態から「家の外で見る」という視聴形態に移行しつつあります。 インターネットでニュースを配信するネット業界の人たちに聞いても、「これからの人はスマホの小さな画面でテレビ番組を見る時代が来る」という意見が多い状態です。私が副編集長を務める放送批評雑誌「GALAC」でも、これからのテレビの視聴は「大きな画面」で“4K対応テレビ”などで見るようになるのか、それとも「小さな画面」でスマホ画面を見るのが主流になるのかアンケート調査を実施してみるなど現在の流れを折に触れて特集しています。多かったのは「大画面テレビとスマホを使い分けて見る時代になる」という回答でした。 今の段階では確実にこうなる、という流れをはっきりと見いだすことはできませんが、おそらくこれから3年程度の間に明確な傾向が見えてくると思います。とにかく2014年は、テレビの視聴が「大画面へ」向かうのか。それとも「小画面へ」向かうのか。その分かれ道になりそうな年だったことは確かです。
やはり「映像が命!」さまざまな映像はどこから?
さて、そうしたなかでの2014年のテレビ番組はどうだったのでしょう? 私は「映像メディア」としてのテレビがその強みを発揮したのは特に「ニュース」だったと感じています。 たとえば、御嶽山噴火での山頂付近にいた登山者たちが撮影した迫真の映像は、テレビで放送されたことで多くの人にそのリアルな恐怖を伝えることができました。新聞や雑誌などの活字メディアでは伝えることはできません。ただし、これらの映像は撮影した登山者がネット上に「投稿」したからこそ、注目されて広がる結果になったのです。 つまり、テレビでの報道でも、記者たちがネット上に投稿された映像などを渉猟し、目新しいものを発掘してテレビニュースに活用する時代がやってきた、ということができます。これはこの2、3年で顕著になっている傾向で、昨年10月の東京・三鷹市でのストーカーによる女子高生殺害事件の報道でも容疑者の顔写真や被害者との関係を示す画像などネット上に投稿された言葉や画像、動画がテレビでも報道されました。また、容疑者がネット上にアップしていた被害者の動画が「リベンジポルノ」として話題になりました。 テレビの記者たちが「ネット上の言葉・画像・映像」を取材することになり、そこでの映像探しはテレビ記者たちが互いに競争するジャンルになったということができます。 毎年年末に発表される「新語・流行語大賞2014」の候補を見てみましょう。ノミネートされた言葉の中には、明らかにテレビで放送された「あの場面」「あの一言」というのが目につきます。 **「ゴーストライター」 「STAP細胞はあります」 「号泣会見」 「マウンティング(女子)」 「リベンジポルノ」 「セクハラやじ」 「勝てない相手はもういない」** 多くの人はそれぞれの場面の「映像」や「音声」が浮かぶことと思います。号泣会見やセクハラやじなどは、テレビで放映されたからこそ、ここまで注目されるようになった、ということが言えます。他方、発端になったのは実はテレビではない、というのも今年の特徴です。これらの問題に火がついたきっかけはむしろネットでの投稿、SNSでの拡散などによって広がったことです。タイミング的にテレビが「後追い」状態になった面は否定できません。 そういう意味でもネットとテレビ報道の関係が大きく変わったのが2014年だと言うことができるかもしれません。 ---------------- 水島宏明(みずしま ひろあき) 法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター。1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー 『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科 学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。近著に『内側から見たテレビ』(朝日新書)。