「人はこんなにたくましい!」 現代日本で自然と共に生きる人々を描いた"傑作移住記"!
友人に誘われてマタギとの飲み会に参加した大滝ジュンコさんは、山の暮らしの面白さに惹かれ、新潟県村上市の山熊田という山あいの集落に移住した。 【書影】『現代アートを続けていたら、いつのまにかマタギの嫁になっていた』 『現代アートを続けていたら、いつのまにかマタギの嫁になっていた』を読むと、薪割り、クマの巻き狩り、鮎かき、山菜採り、機織りなど、今も山と共に生きる人々がいることに驚かされる。大滝さんにマタギの村の魅力を聞いた。 * * * ――もともと山の暮らしに興味があったのですか? 大滝 取り立てて山が好きだったわけではなく、山熊田の人の生きざまが強烈だったんです。 私は埼玉生まれなんですけど、町では人間がつくった社会構造の中にいるから、人間本位の便利な暮らしが当たり前ですよね。それが山熊田では人間が一歩引いて自然の中に間借りしてるような暮らし方なんですよ。 例えば、明日の仕事を前日に決めていたとしても、そのとおりになったことはほぼありません。朝起きて、「今日は天気がこんな感じだから、ちょっと山をのぞいてくる」みたいに、スケジュールが天気次第、山次第。 村のみんなは自然を凝視して、それに合わせて行動するんです。畑の土を起こす時期も空気のぬるみを感じて決めています。 ――そんな山熊田の暮らしのどこに魅力を感じていますか? 大滝 知らないことが多すぎるので、暮らす時間が長くなるほど、経験すればするほど、だんだん解像度が上がってくる感じが面白いですね。窓から見える景色は同じはずなのに、雲とか霧、川の水量も毎日違うんです。 「シジュウカラの群れがいなくなったな」「ハナバチが飛んでるぞ」とめまぐるしく変わる。ここに来て10年目ですが、こんなにずっと新鮮な土地もあんまりないだろうなと。 ――一年の仕事で特に好きな作業を教えてください。 大滝 一番好きなのは、「羽越しな布」という布の仕込みで、原料の樹皮を川で洗う工程です。暑くなり始めた7月頃なので、仕事と称して水遊びをしているくらいの楽しさ。あと、田起こしと代かきは「春が来たぞ」と生き物を叩き起こしてる感じがして好きですね。 山あいの田んぼだから、木の上のタカとか水辺のオシドリとか、毎年巣を作りに来るサシバとか、野生動物がすごく近くにいるんです。ポツンと私だけが耕運機に乗っていて、その空間をひとり占め。ご褒美タイムですね。