鈴木清順の脚本直しの詳細を 認識できるブックレットが秀逸 ―『鈴木清順生誕100周年記念 シリーズ ブルーレイBOX』
清順映画における脚本直しの周到さは、これまでスタッフや映画評論家森卓也の証言などで伝説的に語られてきたものの、現物が掲示されたことはない。今回、ご遺族の厚意により筆者はそれらをじっくり読ませていただくのが叶った。結論から言うと事実が伝説を超えるというか、聞きしに勝る膨大な量の書き込み、読み直しに感嘆した。その一部が既に封切り時に公刊されている脚本「けんかえれじい」は、当時問題視された物語の飛躍(北一輝の出現)のみならず演出手法の検討もじっくり行われ、その過程が逐一判読できる。日活時代の清順が多くの助監督陣(その後、日本映画を代表する監督になった人々)に刺激を与えたという、その理由がよく分かった。清順脚本読解、という新たな方法論は今後の映画研究における一つの規範を提示するものとなり得るのではないだろうか。 文=上島春彦 制作=キネマ旬報社(「キネマ旬報」2024年4月号より転載)
キネマ旬報社