『ブギウギ』が伝える“人を生かすための歌” 菊地凛子が圧巻のパフォーマンスを披露
『ブギウギ』(NHK総合)第69話では、スズ子(趣里)は久しぶりの公演に臨む。物語冒頭は、「福来スズ子とその楽団」のメンバーたちの和気あいあいとした様子や、スズ子以上に公演の開催を喜ぶ愛助(水上恒司)の様子が微笑ましかった。特に、愛助は力強く「いっちゃん楽しみにしてんのは、僕や!」とスズ子に訴えかけたり、“推し”への愛をスズ子本人に語ったり、興奮するあまり表情も語り口も仰々しくなってしまうのが面白い。 【写真】圧巻の歌唱力で「別れのブルース」を歌う菊地凛子 スズ子は久しぶりの公演に少し不安を抱えていたが、愛助の言葉に励まされる。 「大丈夫。言うてるやろ? 福来スズ子の歌には、力がある」 公演の開催を心から喜んで大きな笑顔を見せたり、不安を打ち明けたスズ子にまっすぐ向き合う愛助が、スズ子にとってどれだけ大きな存在かが感じられた。 第69話はりつ子(菊地凛子)の描写も強く心に残る。りつ子は慰問先の出来事が忘れられず、心に傷を負っていた。りつ子は特攻隊員たちが残した言葉が耳から離れないのだとスズ子に打ち明ける。これまでりつ子は人知れず、自分の歌に背中を押されて死んでいったかもしれない彼らのことを思い出しては、悔恨の念にさいなまれていたのかもしれない。りつ子は悔しさを滲ませながらこう言った。 「歌は人を生かすために歌うもんでしょう?」 「戦争なんてくそ食らえよ」と、りつ子は吐き捨てる。戦争が終わっても、戦争で受けた心の傷はいつまでも残り続けることを思い知らされる。そんなりつ子の苦しみを和らげたのはスズ子の言葉だった。 「ほんなら、これからはワテらの歌で生かさな」 「今がどん底やったら、あとはようなるだけですもんね。歌えば歌うだけ、みんな元気になるはずや」 前向きなスズ子の考え方が、りつ子のやりきれない気持ちを歌う糧に変える。舞台で「別れのブルース」を歌い上げるりつ子の脳裏には、慰問先の出来事がありありと浮かぶ。りつ子は涙をこらえるような面持ちを見せながらも、マイクスタンドを強く握り、心を込めて歌い続ける。そんな彼女の歌声に人々は耳を傾け、涙を浮かべていた。りつ子の歌声を待っていた人々の存在を確かに感じながら、りつ子は歌いきった。 りつ子はこれからも人を生かすための歌を歌い続ける。歌が持つ力を強く感じる圧巻の回となった。
片山香帆