[特集/新風を吹き込む若手56人 02]テクニックや戦術眼だけじゃない “万能性”こそが新世代MFの証
かつてMFの花形であったのは「ファンタジスタ」と呼ばれる10番タイプの選手だった。しかし、華麗なテクニックで魅せる反面、守備の貢献度が低いファンタジスタたちは現代サッカーにおいてしだいに絶滅危惧種となっていく。 現在、MFに求められるものは多い。テクニックはもちろんのこと、守備にも走れるスタミナや献身性が必要で、フィジカル・エリートであることも求められる。加えて、局面を読む戦術眼やそれを実現するプレイ精度を兼ね備えていなくてはならない。いわば“いろいろやれること”を求められるのが現代のMFだが、育成の賜物か、現在22歳以下の新世代MFにはそれらを当たり前のようにこなすプレイヤーが数多く存在しているのだ。 もちろん選手によって得意とするところは違うが、マルチタスクをこなしたり、FW顔負けの得点力を備えていたりと、テクニックだけでなく他の強みをいくつも持っているのが新世代MFの大きな特長となっている。
20歳のベリンガムはまさに万能性を体現
今最も勢いに乗っている若手MFは、間違いなくレアル・マドリードのジュード・ベリンガムだろう。 2003年生まれの20歳で、2023年の若手版バロンドール「コパ・トロフィー」を受賞。今季からレアル・マドリードに移籍するや、攻守に渡ってチームを牽引する働きぶりをみせている。ベリンガムをトップ下に置く、現在では珍しいMFをダイヤモンド型に配するシステムもベリンガムの存在があってこそだ。 キープ力、配球力、決定力に優れ、ゴール前でこぼれ球を押し込むストライカー的な嗅覚を持つ。MFながらラ・リーガ得点ランクのトップに立つほどで、たびたび決勝点をゲットする勝負強さが光るが、終盤にゴール前へ出ていけるスタミナと意欲が前提になっている。守備の貢献度も高く、トップ下からボランチへ下がってスペースを埋めることができる。シーズン途中からは左サイドハーフとして攻守のバランスをとるようになった。 かつてのスターは「天才」ではあっても「万能」ではなかった。攻撃力は飛び抜けているが守備はできないケースは多く、逆に守備力が抜群なら攻撃は物足りないなど、すべての分野で抜きんでていたわけではなく、またその必要もなかった。 サッカー史上で万能かつ天才と言われた選手は少なく、ディエゴ・マラドーナ、リオネル・メッシ、ジネディーヌ・ジダンは該当しない。フランツ・ベッケンバウアーは万能だったが、リベロというポジションの制約があった。おそらく唯一、万能で天才だったのはレアル・マドリードのレジェンドだったアルフレド・ディ・ステファノだろう。 ベリンガムはその万能性でディ・ステファノとの比較さえされている。ディ・ステファノと比べるのはさすがに早すぎるが、10年後は本当に比較すべき存在になっているかもしれない。少なくともベリンガムと同じ年齢のディ・ステファノはまだそこまで万能ではなかった。この年齢でこれだけ完成された万能型は珍しいが、ちょうどこの世代からそれがデフォルトになっている感はある。ベリンガムはその代表格といえる。 2003年生まれの逸材は他にもいる。バイエルン・ミュンヘンで存在感を放つジャマル・ムシアラも忘れてはいけない。 長身にもかかわらず、狭いスペースに入っていくドリブルが武器。スピードはあるが、縦にぶっちぎるのではなく、横へ横へとかわしていく足に吸いつくような運び方に特徴がある。するすると侵入するドリブルは南米的で、ドイツにはあまりいない希少なタイプである。 新世代らしくフィジカル・エリートでもあり、運動量や守備力も備えている。ベリンガムに万能性では一歩譲るが、チームのために貢献できるタイプで、何もないところから得点チャンスを生み出せる能力は独特だ。 そして、オランダで結果を残したことでパリ・サンジェルマンに買い戻され、今季はライプツィヒへレンタル移籍しているシャビ・シモンズ、レヴァークーゼンのフロリアン・ヴィルツ、ユヴェントスのファビオ・ミレッティも2003年生まれの20歳である。 シモンズは初のブンデスリーガ挑戦でもここまで4ゴール7アシストを記録し、欧州のトップリーグでもその実力が通用することを証明。ヴィルツも10番としてリーグ首位を走るチームを牽引し、ミレッティも再起を図るチームで貴重な存在となっている。