相次ぐ人質殺害で揺れるアメリカの「人質救出政策」 国際政治アナリスト・菅原出
12月6日、米政府は、イエメン南部の村で拘束されていたアメリカ人フォト・ジャーナリストを救出するため、米海軍特殊部隊「シールズ」を送って救出作戦を実施しました。しかし作戦は失敗し、人質となっていたアメリカ人ルーク・サマーズ氏は、一緒に拘束されていた南アフリカ人ピエール・コーキー氏と共に犯人グループに殺害されました。 アメリカ人たちを人質にとっていたのはイスラム過激派組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」という組織でした。同組織は、米政府が拘束している自分たちの同胞の解放を要求し、その要求が満たされなければ人質を殺害すると米政府を脅迫する映像を発表していました。 米軍の救出作戦は、アメリカ人の命を救えなかったばかりか、一緒に人質にされていた南アフリカ人コーキー氏の命も奪うことになってしまいました。コーキー氏の解放に関しては民間の人道支援団体がAQAPとの間に入って交渉を進めており、7日に同氏は解放される予定でした。米軍が救出作戦を実施したことで、交渉によって解放される予定だったコーキー氏まで殺害されてしまったため、米政府の人質救出政策に対する疑問の声が強まっています。
身代金で解放されていた米英国籍以外の人質たち
実はこの事件が発生する前から、米政府の人質救出政策に対する批判が米国内で噴出しており、オバマ政権は人質救出に関する政策の包括的な見直しを関係部署に命じていました。今回の事件は、そうした見直し作業の最中に発生したのでした。 オバマ政権が、従来の人質救出政策の見直しを進めることになったのは、イスラム国の登場以来、米国人ジャーナリストや援助関係者が相次いで殺害されているからです。イスラム国は8月19日にジェームズ・フォーリー氏、9月2日にはスティーブン・ソトロフ氏を、そして11月16日にはピーター・カッシグ氏を公開処刑しています。 当初は、イスラム国の残虐性やこの過激派を非難する報道が目立っていたのですが、やがて米メディアは「イスラム国に拘束されていたのはフォーリー氏やソトロフ氏だけでなく、全部で23名の欧米人がいたこと」「米国と英国を除く欧州の国々は、人質となっている自国民の救出のためイスラム国と交渉を進め、身代金を支払うことで人質を解放させることに成功していた」という事実を報じるようになりました。 こうした事実は、殺害された米国人ジャーナリストの家族たちから米メディアに伝えられていました。家族たちはイスラム国とEメールを通じて何ヶ月もやり取りをしており、米連邦捜査局(FBI)などに相談しながら、愛する家族の解放のために努力していました。