【実録 竜戦士たちの10・8】(34)正式に巨人の一員となった落合、新人・松井秀喜を大絶賛 ”育成はお任せ”とばかりに熱弁
1993年も残すところあとわずか。年末年始をハワイで過ごす中日監督の高木守道は12月26日の在名テレビ局出演で年内の監督としての仕事を終えた。年が明ければ3年契約の3年目。高木に求められるものは「優勝」の二文字しかない。 高木が過去2年の反省として、まず挙げたのが「盗塁の少なさ」だった。この年の中日のチーム盗塁数は12球団最少の29。これはパ・リーグの盗塁王・大石大二郎(近鉄)の31にも及ばない。 「走ってくると思うだけで、相手は嫌な感じになるもの」という高木が、その象徴として挙げたのが88年に新人で22盗塁を成功させながら、その後は年々、企図数も盗塁数も減少。この年は企図数14で6盗塁に終わった立浪和義だ。 「あのころはハツラツとしていたが、今は『安全に、安全に』という気持ちになっているのではないか。走らなければ走れなくなる。ノルマを決めてやるのも、いいかもしれない」 優勝したヤクルトと比較してもチーム本塁打数では中日が18本上回りながら、総得点は84点も少ない。その原因も42差つけられた盗塁数など、機動力にあったというのが高木の分析だった。 東京では巨人監督の長嶋茂雄と、正式に巨人の一員となった落合が日本テレビのスポーツ情報番組に生出演。新人の松井秀喜について聞かれた落合は「いいですよ。体も大きいし、遠くに飛ばす天性のものがある。僕みたいに体が小さな人間は、いかに全身を使って打つか。技術、技術となるけど、松井には体がある。彼が全身を使って打てるようになったら30本じゃ済まない。50本、60本打てるようになりますよ」と大絶賛した。 さらに「たとえば攻め方。どんな攻め方を敵が考えているかを知れば大分、違う。『いま、投手はこういうことを考えているぞ』と、ベンチの中で教えてあげればいい。それと、なぜ失敗したかを考えてやってほしい。そうすれば進んでいける」。まるで”松井育成はお任せ”とばかりに熱弁をふるった。 これには長嶋も「(落合に)学ぶところは一カ所ではない。なぜ40歳で第一線でやっていけるか? 不思議に思っているものの答えを探してほしい」とうなずくばかり。 落合流出をピンチではなくチャンスととらえ、これまでの一発頼みから機動力も備えた攻撃への転換を図ろうとする高木と、落合という存在を刺激剤にチーム改革をと考える長嶋。それぞれが94年に目指す野球、チームづくりが鮮明に見えてきた。 =敬称略 ※第1章終わり。第2章「それぞれの再出発」は1月7日からスタート予定です。
中日スポーツ