「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景
少子化の原因とされる若年層の生活不安はデータ上存在しない。ただ、国家が成熟して目標を失い、「漠然とした不安」が活力を奪っているのだ
今から30年以上も前のことである。人生初の留学で暮らしたソウルの下宿には女主人がいて、日本にも行ったことがあるという。「印象はどうでしたか?」。そう尋ねた筆者に、彼女は不思議そうに言った。「日本にはね、街に子供がいないのよ」【木村 幹(神戸大学大学院教授)】 【動画】韓国女子高生たちの壮絶ないじめ 言われるまで気付かなかったが、確かに当時のソウルには至る所に子供がいた。当時の子供たちが生まれた1980年代初頭の韓国の合計特殊出生率は2.0を超えており、逆に日本は1.7前後の数字で推移していた。 その差がそのまま街にいる子供の数となって表れていた。 しかし、今、ソウルの街に子供はいない。2000年代初頭に日本を下回った韓国の合計特殊出生率はその後も下がり続け、18年にはついに1.0を割り込んだ。そして昨年の数字は0.72。 数値としては異なるデータを使っている国連統計でも韓国の数字は主権国家中、最下位になっている。 この原因としてよく指摘されるのが、若年層をめぐる生活不安である。韓国では若年層の失業率が高く、雇用における非正規雇用の割合も多い。 このような状況では婚姻年齢も上がらざるを得ず、その結果、結婚を諦める人たちも増えている。今の韓国は結婚して子供を育てられるような国ではなく、だから少子化が進むのは当然なのだ、と。
目標だった先進国になった後
しかし、実際はそれほど単純ではない。 なぜなら他国と比べて、韓国の若年層が置かれた現在の状況が極端に悪いとは言えないからだ。OECDの統計によれば、23年の韓国の失業率は2.7%。 OECD諸国の中で日本、チェコに次いで3番目に低い。若年層に当たる15~24歳の失業率はこれより高い7.4%だが、この数字も38カ国中7番目に低い。 ちなみにアメリカは10.1%、フランスは18.5%、イタリアに至っては25.4%。今日の世界で、若年層の失業率が全体より高く出るのは多くの国で見られる現象なのだ。 労働条件も同様である。同じOECDのデータで、21年の韓国における高校以上の学歴を持つ24~34歳の人々のうち、パートタイムあるいは年次契約で働く人の割合は世代人口の5%。 同年齢の労働人口に対しても7%にしかならないから、これも大きな数字だとは言えない。 給与面もことさらに悪いとは言えない。働き盛りの25~55歳の賃金に対する15~24歳の賃金の割合は、22年で40.4%。この数字もOECD諸国で上位に位置している。 国全体の格差を示すジニ係数は22年で0.324。日本とほぼ同程度であり、米英と比べるとかなり良い。