箱根駅伝Stories/新体制で挑む神奈川大の次期エース酒井健成「全員駅伝でシード権獲得を」
絶体絶命の予選会を乗り越え――
迎えた今年度の箱根駅伝予選会。フリーで走る宮本、中野蒼心(3年)以外の10人を率いる集団走のリーダー役として酒井は抜擢された。「壮絶というか、自分も通過したことが驚き。暑かったしきつかったです」。中野駅伝監督は「今回予選会を通過できたのは、酒井がうまく集団をコントロールしてくれたことが一番の要因」と酒井のリーダーシップを絶賛した。 どんなコントロールだったのか。「本当は15kmまで引っ張りたかったのですが、暑さもあり10kmくらいで志食隆希(3年)に『代わって!』と交代してもらいました。そこで一回休憩できたのがよかったのかなと思います」。元々酒井のサポート役として志食か、新妻玲旺(2年)が引っ張りを代わる想定だったが、新妻は厳しい状況だった。 想定外だったのが、フリーで前方を走っていた中野が「12km地点で落ちて来たこと」。ただ、他大学も落ちていることに気づいていたのが西坂昂也(3年)。「焦らなくても大丈夫だよ」と酒井に声をかけた。酷暑の中で走りながらも通じ合ったチーム内のコミュニケーション。17㎞過ぎの折り返し地点では、余裕を取り戻した酒井も仲間へすれ違いざまに声を掛けた。10位争いは混沌としていたが、結果的に10位順大を最後の3㎞で2分引き離した。 ただ、最大の想定外は、チームの先頭を走っていた宮本がゴールしていなかったことだ。酒井は「自分がチームトップと聞いて驚き、やばいと思いました」。沿道にいたチーム関係者のグループラインでは『宮本途中棄権』の情報はすぐに回ったが、走っている選手には伝わっていなかった。無事総合9位で箱根路が決まると、酒井は胸をなでおろした。 本戦では1~3区を希望する。全日本では2区で区間16位。「他校のエースとの差を感じて悔しい駅伝でした。箱根では自分が流れをつかめるような走りをしたい」。競り合っていたら絶対に離れず、追いかけ粘ってラストは上げる――。「今回は前回みたいに強い選手がいないので、全員駅伝で他校にチャレンジしてシード権を取りたい」。力を出し切れなかった昨年の4年生たちへ、感謝の思いを少しでも返したいという気持ちもある。 神奈川大OBの兄、一さんとは試合が終わるたびに連絡を取る。市民ランナーでもあることからシューズについてアドバイスしたりもするという。「新体制になって1年目の勝負。どれだけ戦えるか楽しみだし、次の年にもつなげたい」。1月3日、全力を出し切ったプラウドブルーの中心に、きっと酒井の笑顔がある。 さかい・けんせい/2003年10月20日生まれ。愛知県豊田市出身。愛知・上郷中→愛知高。5000m13分56秒62、10000m28分50秒21、ハーフ1時間4分20秒
荒井寛太/月刊陸上競技