刃物を投げつける父と陰口を言う継母…伝説のストリッパーを生み出した衝撃の「家庭環境」
1960年代ストリップの世界で頂点に君臨した女性がいた。やさしさと厳しさを兼ねそろえ、どこか不幸さを感じさせながらも昭和の男社会を狂気的に魅了した伝説のストリッパー、“一条さゆり”。しかし栄華を極めたあと、生活保護を受けるまでに落ちぶれることとなる。川口生まれの平凡な少女が送った波乱万丈な人生。その背後にはどんな時代の流れがあったのか 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 「一条さゆり」という昭和が生んだ伝説の踊り子の生き様を記録した『踊る菩薩』(小倉孝保著)から、彼女の生涯と昭和の日本社会の“変化”を紐解いていく。 『踊る菩薩』連載第26回 『じつは、「順天堂の歯科医」...週刊誌に暴かれた「伝説の踊り子」の虚偽にまみれた「驚愕の過去」』より続く
謎に包まれた伝説の踊り子
フリーライターの福島清茂は週刊新潮「実録」取材班の中心メンバーだった。50(昭和25)年、宮城県生まれ。私は2022年4月に池袋で福島から話を聞いた。 「彼女は小説にもなって映画にも出ていました。引退公演での逮捕劇もあって、あの世界では超有名人でした。でも、調べてみると彼女の過去はよくわからない。だから夢中になって取材したのを覚えています」 福島は大学を卒業した後、立花隆が文藝春秋で作っていた取材班に入っている。そこでノンフィクション取材の「いろは」を身につけ、27歳ごろに週刊新潮へ移り、嘱託契約を経て39歳で社員となった。名物コラム「クラブ」を長く担当し、銀座や祇園のママから話を聞いて、世相を描いてきた。
刃物を投げる父
週刊新潮では95年1月から山崎豊子が小説『沈まぬ太陽』を長期連載していた。その第2部が97年10月初めに終わる予定になっていた。第3部のスタートは98年1月である。編集部としては、2部と3部の間の小説休載期間に、話題性のある連載がほしかった。 「何かないかなと話し合いをしていたんです。編集長は『やっぱり誰か女がいいだろう』と。ちょうど一条さんが亡くなったときだったんです」 福島は懐かしそうに語る。彼女が亡くなり、久しぶりに名前がメディアに登場していた。名前はよく知っているわりに、経歴や素顔には不明な点が多かった。それで取材に入ることになった。 福島たちは一条の姉2人からも話を聞いている。それによって子ども時代の彼女の様子や家族との関係が明らかになっていく。 「私は『クラブ』の連載を書いていたから、いろんな人生を見てきたと思っていた。それでも、彼女ほど波乱に富んだ人生を生きた人は知りません。取材をしながら、そう痛感しました」 鋳物職人だった父は酒好きで、稼ぎの多くが酒代に消えていた。家計はいつも火の車で、借金取りに配給米まで持っていかれるほどだった。 一条は私のインタビューで、父の性格についてこう語っている。 「外面だけはいい。酒ばっかり飲んで、給料は家に入れない。家では厳しくして、説教するときも普通じゃない。熱い火箸でバシッとくるんです」 酒癖が悪く、家族に向かって刃物を投げつけることもあったらしい。