日産のEV戦略は、なぜ「販売台数拡大」に惑わされてしまったのか…元社長・西川廣人氏が振り返る「ゴーン改革」の現実
---------- 歴史学者の磯田道史氏は 「日産の歴史的経験を未来の道しるべに。本書の姿勢に心打たれた」と推薦する。高度成長、バブル、経営危機、V字回復、そしてゴーン逮捕──カルロス・ゴーン会長のもと、日産社長を務めた男はそのとき何を考えていたのか? 元・日産社長による衝撃の回顧録『わたしと日産 巨大自動車産業の光と影』がついに刊行された。赤裸々に明かされる白熱の手記の中身を明かそう。グローバル化の渦中にいる全ビジネスマン必携の書だ。(文中敬称略) ---------- 【写真】リーマンから371億円を騙し取り、懲役15年を食らった男がヤバすぎる
ルノーではカリスマではなかったカルロス・ゴーン
西川廣人・元社長の目から見ると、日本で「カリスマ経営者」と崇められていたカルロス・ゴーンの評価は、ルノーではだいぶ様相が異なっていた。 〈日本でゴーンを見ていた方々には意外に思えるかもしれないが、ルノーにおけるゴーンの存在感は、日産におけるそれとは全く違っていた。 日産では「カリスマ」と呼ばれたが、ゴーンがルノーで発揮するリーダーシップは決して「カリスマ」と呼べるものではなかった。 特にゴーンと一緒にルノーから日産に送り込まれた第一世代の幹部の多くは、必ずしもゴーンに対してイエスマンではなかった。時には大胆に批判的な意見を言い放つ連中も少なくなかったのである。 それに比べて第二世代ともいえる時期になると、その様相は一変した。ゴーンCEOが文字通りの「カリスマ」としてまつり上げられ、周囲との距離はどんどん離れていった。少なくとも私はそう感じていた。〉(『わたしと日産』158~159ページ) リーマン・ショック(2008年秋)、東日本大震災(2011年3月11日)、タイの大洪水(2011年夏)と、日産は次々と大ピンチに見舞われた。この間のカルロス・ゴーンの指揮について、西川元社長の評価は手厳しい。 〈リーマン・ショック、大震災、大洪水……。それぞれ要因も影響も異なるのだが、経営上の成長戦略より、危機管理能力が問われることになったのだ。 かつてゴーンは瀕死の状態にあった日産をV字回復させ、徹底的なコスト削減策によって「コストカッター」の異名を与えられた。彼の経営者としての本領は逆境、逆風下で発揮されるのかもしれない。 いったん逆境を克服してマイナスからプラスに転じ、さらに成長を目指す局面に入った時、経営者はどうすべきか。成長戦略を打ち立てるには、当然ながらコスト削減とは違う次元の発想が必要になる。 危機、逆境からの再生という局面で大いに発揮されたゴーン流経営の強みが、成長局面でどのように発揮されるか? 今になってみれば疑問符を付ける人は少なくないだろうが、彼の弱点だったかもしれない能力を試される時期は、リーマン・ショックや大震災、大洪水によって先延ばしされた……。私はそう思っている。〉(『わたしと日産』164ページ)
【関連記事】
- 《つづきを読む》ゴーン逮捕の日、日産社長・西川廣人が考えていたこと…話題作「わたしと日産」は、なぜビジネスマン必読なのか【歴史学者・磯田道史氏が「心打たれた」と】
- 《読みどころ》いったい何が書いてある?ゴーン時代の日産自動車社長が回顧録出版で業界騒然…ジャーナリスト・井上久男が「本の読みどころ」を一挙に明かす
- 【独自】日産元社長・西川廣人氏が出版する回顧録の中身を初公開…カルロス・ゴーン会長のもと、そのとき社長は何を考えていたのか
- 元・日産社長の歴史的証言「カルロス・ゴーンが私に託したアドバイス」とは何だったか《話題書「わたしと日産」いよいよ発売》
- 尊敬すべき経営者が「350億円をネコババ」…誰もが驚愕した日産会長の大罪《西川廣人元社長手記の中身》