映画『HAPPYEND』のW主演俳優が語る、心や価値観を揺さぶる物語と音楽のパワー
青春や友情の不安定な恐ろしさが覆いかぶさってくるような音楽
ーRolling Stone Japanは音楽を軸にしたメディアですので、お二人がプライベートでどのように音楽を楽しんでいるのかもお聞きしたいです。 栗原 今作を通してDJに初めて触れさせてもらったことをきっかけに、DJプレイをしたりしています。あとは由起刀と二人で好きなジャンルのクラブイベントに遊びに行ったり。お互いにヤバいと思った曲を教え合ったりしていますね。今、一緒に住んでいるので。 ーえ、栗原さんと日高さんがですか? 栗原 はい。7月下旬ぐらいから、お互いの家の契約のタイミングも重なって。撮影期間中、1カ月半ぐらいホテルの部屋が隣で、同じ環境を過ごす中で、「一緒に住んだらおもしろいな」ということになりました。 日高 何者でもない状態からいきなり主演をやらせていただいて、ヴェネチアにも行かせていただいたり、それこそ大きな環境の変化を経験して、お互いにしか共有できない環境や感覚がすごく多くなって。それで、「住んじゃわない?」っていうノリで(笑)。 栗原 音央さんに話した時も、最初は冗談だと思ったみたいで、ビックリしていました。 日高 だから、片方が口ずさんでる曲がもう片方の耳に残っちゃう、みたいなことはよくあります。 ーなるほど。注目しているアーティストやシーンはありますか? 日高 今回共演させていただいた¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uさんのイベントはよく二人で行ってます。海外の映画祭に行くときにも、タイミングが合えば『Boiler Room』に行きたいねって話してますね。お互いにハードなハウスやテクノを聴いていて、僕はFred again..をジムで聴きながらランニングマシンで走ってます。 栗原 僕は、Schwefelgelbっていうドイツの二人組ユニットがすごく好きで、4~5年前くらいから追っています。やっぱり二人とも、重たくて速い音が好きだよね。 日高 現場でも、ロケバスで待機中に二人だけになったら、勝手にBluetoothを繋げて曲を流して(笑)。 ーなんだか、そのノリもユウタとコウに重なりますね。 日高 本当に、元々仲良かった同級生達で映画を作ったような感覚でした。楽しかったよね。 栗原 楽しかった。 ー『HAPPYEND』劇中での音楽の扱われ方については、どう感じましたか? 栗原 もう、凄まじいですよね。どこかに、いつ壊れるかわからない恐ろしさのようなものも感じて。 日高 感情を煽られるような感じ。青春や友情の不安定な恐ろしさが覆いかぶさってくるような音楽で、絶対に劇場で味わってほしいと思いました。 ー二人が没頭するテクノから、コウを昂揚させる「くそくらえ節」まで、直接的に社会を動かすことはできずとも、人を揺さぶる音楽のパワーが物語のキーになっています。 栗原 「くそくらえ節」は凄かった。コウが一人で口ずさむのと、居酒屋でみんなが合唱しているのでは、やっぱり捉えられ方が全然違うし。 ーそういった音楽の二面性のようなものって、やっぱりクラブで感じることが多いと思うんですよ。ボーダーを越えた様々な人間が集まって楽しんでいるけれど、同時にそれぞれが孤独なままでもあるっていうか。 栗原 すごくわかります。 日高 クラブは音楽を聴きに行ってその上に感情が乗る感じですけれど、この映画は逆に、感情の上に音楽や音響が乗る感じで。今まで感じたことのないような、ゾクゾクしちゃう感覚になりましたね。切り取り方や使われ方で、音楽の印象が全然違うっていう。 栗原 逆に、無音も印象に残るよね。 日高 そうそう。ハッとさせられるようなタイミングがたくさんありました。 ー今後のキャリアで挑戦してみたい作品や役柄はありますか? 栗原 まだまだ経験が浅いので、何でもやってみたいです。自然に出会ったものに挑戦させていただいて、そこでまた新たなことを勉強していきたいですね。 日高 今回は内側に秘めてる感情をちょっとした表情の変化で表すような作品でしたけれど、もっと起伏が激しいような演技もしてみたいです。たとえば、アートに没頭して精神がおかしくなっちゃうような画家や音楽家とか。大声で叫んだり、泣きながら走ったりしてみたいんですよね。そういう、今作とは違う感情の表し方をしてみたいです。 栗原 今ふと思い付いたんですけれど、僕って孤独に触れたことがないなと思って。自分自身の人生もそうだし、ユウタもそうなんですけれど、周りにずっと友達がいて。 日高 良いことやん。 栗原 常日頃、ずっと誰かといたいっていう気持ちが強いんですよ。だからこそ、逆にそういう役をいただいたら自分の中身がどう変化するのか気になります。 ー最後の質問です。本作は「ありえるかもしれない未来」が舞台になっていますが、もしそんな世界が現実になってしまった時、お二人はユウタやコウよりも、どちらかと言えば劇中に登場する大人達に近い立場にいるかもしれません。それも踏まえて、どのような大人でありたいと思いますか。 栗原 いつも誰かが誰かを見ている、発言に気を付けないといけない時代の中で、コウのように、言わなきゃいけないことを諦めずにいないといけないと思います。たとえ誰かに批判されるとしても、伝えるべき思いを持っておける大人になりたいです。 日高 誰かの基準にされない大人になりたいです。「日高由起刀がやっているからやる」じゃなくて、日高由起刀はこういう人間で、だからこういうことをやっているということを、他人にも理解してもらえたら、俳優としても自分自身の生き方として本望かなと思います。 『HAPPYEND』 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中 栗原颯人 日高由起刀 林裕太 シナ・ペン ARAZI 祷キララ 中島歩 矢作マサル PUSHIM 渡辺真起子/佐野史郎 監督・脚本:空 音央 撮影:ビル・キルスタイン 美術:安宅紀史 プロデューサー:アルバート・トーレン、増渕愛子、エリック・ニアリ、アレックス・ロー、アンソニー・チェン 製作・制作: ZAKKUBALAN、シネリック・クリエイティブ、Cinema Inutile 配給:ビターズ・エンド 日本・アメリカ/2024/カラー/DCP/113分/5.1ch/1.85:1
Masahiro Saito