旧知の笑福亭鶴瓶と片岡愛之助が対談。『怪盗グルーのミニオン超変身』で“超宿敵”となった感想は?
イルミネーションが贈る「怪盗グルー」シリーズ最新作、『怪盗グルーのミニオン超変身』が7月19日(金)に公開となる。2010年に公開された『怪盗グルーの月泥棒』以来、グルーと相棒ミニオンたちを中心に物語を描いてきた「怪盗グルー」シリーズ。本作の日本語吹替版には、第1作から長きにわたり主人公のグルー役を務めてきた笑福亭鶴瓶と、妻ルーシー役の中島美嘉が続投するほか、片岡愛之助がグルーの学生時代の同級生で“超宿敵”のマキシム役として、シリーズ初参加。さらに、悪党を夢みてグルーに急接近する少女ポピー役として山田杏奈も出演する。 【写真を見る】「怪盗グルー」笑福亭鶴瓶と片岡愛之助が対談。古典芸能と声優業、表現方法の違いとは? MOVIE WALKER PRESSでは、先日行われた「日本語吹替版キャスト報告会」を終えた直後の笑福亭鶴瓶&片岡愛之助を直撃!それぞれ役柄にちなんだファッションを身にまとい、カメラマンのリクエストに応えて“超宿敵”らしいポーズを決めてくれた2人。息ピッタリの様子で、最新作の見どころや日本語吹替版の制作裏話を披露してくれた。 ■「アニメだからできた共演だったね」(鶴瓶) インタビューに先立ち、筆者が名前を名乗るやいなや、すぐさま「レイコ!」と反応した鶴瓶。実は偶然にも鶴瓶の妻と同じ名であり、確認すると漢字まで一緒という共通点があった。 ――グルーとマキシムは高校時代の同級生という役どころですが、鶴瓶さんと愛之助さんも旧知の仲だそうですね。 鶴瓶「そうそう、もともとが松竹芸能だったんで。お師匠さんのことはよく知っていたから」 愛之助「父の(2代目 片岡)秀太郎のことですね」 鶴瓶「あの方に所作とか教えていただいたからね。すごくおもしろい人でしたよ、お師匠さん。おばちゃんみたいな人でね」 愛之助「そうですね(笑)。亡くなってからもう3年も経つんです。早いなぁ…」 鶴瓶「そうか。俺が覚えてるのは、『笑っていいとも!』に愛之助さんがゲストで来はった時に、僕にちらし寿司かなんかをくれはったんですよ。『食べますか?』言うて」 愛之助「そうでしたっけ?鶴瓶さん、本当によく覚えていらっしゃいますね(笑)。それこそ以前は、飲み屋さんでも時々お会いしましたよね」 鶴瓶「そうそう! 心斎橋のメリケン(ジャップ)で。中村勘三郎とか、歌舞伎の連中がよく行く店でね」 愛之助「はい。僕らは先輩に連れて行っていただくんです」 鶴瓶「大喜多っていうマスターが居てて。僕はもう、長いこと行けていないんやけど…」 ――そんなお二人が「宿敵の同級生」という間柄で、「声」で共演されるというのは? 鶴瓶「アニメだからできることや」 愛之助「そうですね(笑)。光栄ですよ。とはいえ、収録現場では一度もお会いできなかったので、出来ることなら掛け合いのシーンだけでも一緒にやりたかったですけどね」 鶴瓶「一緒にやったらもっと(気分が)乗ったかもわからへん。あれ、みんなようやってんなって思うよ。狭いブースに一人で入って。赤いランプがついたらしゃべり出すんやけど、監督から『もう1回お願いします』とか言われて。何遍やっても上手くできないです」 ――しかも、元々ロシア語なまりの英語を標準語に訳したものを、鶴瓶さんが関西弁に。 鶴瓶「あ、あれは、ロシア語なまりなん?たしかに、スティーヴ・カレルさんが話している英語が、もともとちょっとなまってるから…っていうような話は聞いた気がするけど」 ――ロシア語というか、ドイツ語っぽいというのか…。いくつかのパターンを試した結果、子どもたちに一番ウケがよかったのが、あの独特のイントネーションだったみたいですね。 鶴瓶「ほう!」 ――日本版ではいつも鶴瓶さんがその場で関西弁に翻訳されていらっしゃるんですよね? 鶴瓶「そうそう。監督は関東の人やからね。関西弁のダメ出しはできないんですよ」 ――グルーとマキシムの激しい空中バトルも、本作の大きな見どころの一つだそうですね。 鶴瓶「ホンマに、グルーなんて『ウ~』とか『ワァ~』とか、もうそんな掛け声ばっかりやで。マキシムはどうやった?」 愛之助「僕も一人で『イヤァ~!』とか『ウッ!』とか言いながら、頑張って録りましたよ。でも、途中からだんだん『オレ、なにやってんだろう…』って虚しくなってきて(笑)」 鶴瓶「そうやねん。マネージャーに『アクションシーンもちゃんと下読みしてくださいよ』って言われたんやけど、いったいこれをどないしろっていうんや!」 ■「監督が求めることを、いかに短い時間で把握して体現するかが勝負」(愛之助) ――ところで本作は、「グルーJr.が登場する」というのもキーポイントです。鶴瓶さんご自身が子育てされていた当時のことを、懐かしく思い出されることもありますか? 鶴瓶「いや、うちの場合はグルーと違って、ほとんど嫁に任せてましたからね。帰ってきて、ベビーベッドの中にいる子どもを見るたび、どんどん大きくなってた。それこそあの当時は忙しかったのに加えて、付き合いがものすごく多かった。『行こう』って誘われたら、絶対に断れなかったですよ。そこで、顔を売ったっていうんかな。歌舞伎の世界なんかでもそういうとこあるでしょう?」 愛之助「はい。先輩に誘われたら行かないわけにはいきませんもんね」 鶴瓶「それこそ、のりちゃん(十八代目中村勘三郎の本名)となら、なんぼでもいけたっていうか。それで、だいぶ仲良うなったところもあって」 ――となると、本作のグルーのように「ジュニアがなかなか懐かない」みたいなお悩みも? 鶴瓶「いや。うちの子は懐かないっちゅうことはなかった。そこは嫁がちゃんとしてくれてましたからね。『お父さんのおかげやで』ってずっと言ってくれてたんで。そういう面ではありがたかったですね。でも、父親参観なんかの時は、ちゃんと予定空けて行きましたよ」 ――それこそ、鶴瓶さんが授業参観にいらしたら学校中が大騒ぎになったのでは? 鶴瓶「いやいや、そのころはまだそこまで有名じゃなかったから、そんなこともなかったですけど。『こんな仕事をしてるから父親参観にも来ぇへん』っていうのは嫌じゃないですか」 ――改めて、吹替えをするにあたって、特に意識されていらっしゃることはありますか? 鶴瓶「今回みたいに、アクションシーンの掛け合いも全部一人で吹替えるっていうのは大変やけど、『現場に行って合わす』という意味で言うたら、普段やってることとそれほど違わない。実際には、今日初めてマキシムとグルーがこうしてしゃべってるわけやからね」 愛之助「たしかに、そうですね(笑)。『役に魂を吹き込む』という意味では、歌舞伎の役でも、現代劇でも、今回のように声の仕事であっても、全部同じですよね。ただ唯一違うのは、アニメの吹替えは、声だけで喜怒哀楽をすべて表現しないといけないということ。自分の表情が使えないから、もっとオーバーにやったほうがいいのかなって、迷いが出てしまうんです」 鶴瓶「しゃべる時に別にグルーの顔してるわけじゃないからね。オレ、あの顔好きじゃないねん!(笑)」 愛之助「えっ!?そうなんですか?」 鶴瓶「あんま言うたらアカンけども。だってアイツの鼻おかしいし。なんやねん!あれ(笑)」 愛之助「アハハハ(笑)」 ――お二人とも古典芸能に携わられていますが、映像作品の違いを挙げるとしたら? 愛之助「普段、僕らがやっている古典歌舞伎には演出家がいません。いわゆる主役を張る役者が、演出家も兼ねるんですよ。舞台稽古も一回しかやらないので、『ここはもうちょっと明るくして』とか、『この場面はもうちょっと前に出て』みたいに、とにかく全体を見渡して。あらゆるチェックをしてから最後の最後にようやく自分の芝居を確認することになる。でも、映像や吹替版の場合は、監督がいらっしゃるわけじゃないですか。つまり、監督が求めていることを、いかに短い時間で把握して体現するかっていうことが勝負になるわけですよね」 鶴瓶「それはオレも同じよ。落語や生の舞台とは違って、映像は監督のもんやからね。監督がどんな表現をしたいのか。『この監督は今回どういう映画を撮りたいのか』っていうことを、まずは把握しとかんと」 愛之助「なんと。鶴瓶さんのようなベテランの方でも、そんな風に思われているんですか!」 鶴瓶「いや、だって、自分のアタマで考えるよりそっちのほうがラクやんか(笑)。結局、最後は監督が自分で編集しはるわけやから」 愛之助「はい。今回の吹替版も含めて、映像はすべて監督のものなんですよね」 ――同じ「魂を吹き込む」仕事にしても、歌舞伎や落語とは関わり方や立ち位置が異なる、と。 愛之助「そうです。だから、吹替えで役作りをするにしても僕が演じたマキシムなんかは、今回初登場のキャラじゃないですか。マキシムっていうのはどのぐらいの勢いで、どれぐらいのトーンでしゃべる人なのかっていうのを、最初に監督と相談しながらあれこれ調整して。そのうえで『これで行きましょう!』って固まったら、そこでズバッと行けばいい話なので。やっぱり一番大事なのは、監督との最初のディスカッションですよね。そこに尽きますね」 ■「目の前にいる人と、とにかく楽しんで会話することが一番」(鶴瓶) ――最後に、鶴瓶さんに伺ってみたいことがありまして…。鶴瓶さんは「鶴瓶の家族に乾杯」や「A-STUDIO+」などの番組で、日々いろいろな方に取材されている名インタビュアーでもいらっしゃいますよね。インタビューの極意を教えていただけたらと。 鶴瓶「いやいや。別にそんな極意なんてもんはないけど、いまみたいに、自分の目の前にいる人と、とにかく楽しんで会話するってことが一番やと思う。なんか聞き出そうとかっていうんじゃなくて。その場で起きたことに関していかにここ(心)で喋るかっていうことやね。決めてきたことをいくらしゃべっても通じないもん。もちろん、『A-STUDIO+』みたいに番組にゲストが来る場合は別やけど。たとえば、ゲストが歌い手さんだったとしたら、それまでその人が出された曲は、全部しっかり聴き込みます。ベテランの人の時は本当に大変。『この人、何曲出しとんねん!』って思うけど、いつの間にか聴き入ってしまうんですよ」 ――なるほど。相手のお話を伺いながら、ここで話の核心に触れるべきかどうかを見極める瞬間もあると思うのですが、鶴瓶さんの場合は、どのようにされていらっしゃるんですか? 鶴瓶「これはあくまでオレの判断やけど、『そこがおもろい!』と思って入っていったらアカンのよ。『この人、これ言うたら恥ずかしいやろな』っていうところを突くんじゃなくて、僕の場合は、ホンマに思うてることを訊くからね。もちろん、相手が傷つくことを言ったらアカンけども、ある程度の信頼関係が出来てる人に対しては、『なんで?』って訊く。実は、つい最近もある番組の収録でそういうことがあったんやけど、思ってもみなかったような意外なエピソードを話してくれて、オレも感動したもん。あぁ、本当に訊いてよかったって」 ――つまり、鶴瓶さんはたとえ仕事であっても楽しみながら準備をして、本当に心から思ったことだけを訊いているから、いつもあんなにすてきな話をたくさん引き出せるんですね! 鶴瓶「何事も準備は大事やね。(…とインタビュアーに向かっておもむろに)なに、見てんの?」 ――(虚を突かれて)いやいやいや…(汗)。 愛之助「鶴瓶さんがあまりにもすてきすぎて、思わず目を奪われてしまったんでしょう(笑)」 鶴瓶「“玲子”、なに見てんの?」 ――(笑)。鶴瓶さんに、名前を憶えていただけて光栄です(笑)。ありがとうございました! 取材・文/渡邊玲子