勝海舟が江戸城無血開城で押さえていた、交渉の「3つのツボ」
社内外を問わず、ビジネスパーソンが避けて通れないもの。それが交渉だ。交渉力の高さはある面で、本人の実力とほぼ同等に考えてもいいだろう。では交渉力を高めるためには、何をすればいいのだろうか。人事戦略コンサルタントの高城幸司氏(セレブレイン社長)はリクルート在職時代に数々の交渉を成功に導き、営業担当者として6年連続でトップセールスを記録した。高城氏が説く「交渉術の神髄」を2回にわたってお届けする。前半では日本近代史に名を遺す達人から学ぶ、交渉の3つのツボについて語ってもらう。 【関連画像】勝海舟と西郷隆盛が江戸城の無血開城について交渉を行ったとされる場所は、現在の東京メトロ線三田駅近くだ。 ●「白黒つける」のではなく、落としどころを見つけるやり取り 「交渉」という言葉を聞いたとき、皆さんはどのような場面を思い描くでしょうか。私が想像するのは、次の3つの場面です。 1つ目は「相手から相談ごとを持ちかけられている場面」です。「もう少し金額を下げられませんか?」といった相談を受けることは、ビジネスシーンではよくあることですよね。2つ目は「条件の提示を受けている場面」。「納期を早めてくれれば御社と契約しますよ」などと、取引先から何らかの交換条件を出された経験は、皆さんにも少なからずあるのではないでしょうか。そして最後、3つ目は「対応が難しい要望をされている場面」です。ビジネスの現場では、お客さんから「明日までに3つ以上の案を出してほしい」といった難易度の高い要望を出されることも、決して珍しいことではありませんよね。 こうした相談や要望に対して、私たちは何かしらの回答をしなければなりません。もう少し安くできるのか、できないのか。できるのであれば、どの程度の対応が可能なのかといった調整をすることが交渉であり、そのスキルこそが「交渉力」なのです。 なぜ、ビジネスシーンにおいて交渉ごとが発生するのでしょうか。それは、お互いの前提条件に「ずれ」があるからです。自分が考えていることと相手の考えていることは、どうやら違うようだ。とはいえ、相手が何を考えてこの場に臨んでいるのかは分からないし、ストレートに聞いてもきっと答えてくれないだろう……。そんなときは、「腹の探り合い」をしていかなければなりません。そして時には自分の前提条件を変えざるを得ないケースもあることを、あらかじめ考えておくのも大切です。ビジネスでは利害が相反する場合、「白か黒か」という単純な形で決着することは、あまりありません。最終的に何らかの落としどころを見つけるためのやり取りが必要であり、そのやり取りが交渉だといえます。 ●交渉の達人とは、どのような人のことをいうのか 管理職に昇進すると、交渉の機会は増えます。なぜならば昇進によって自分だけでなく、部下の仕事も含めた広い範囲での責任を背負う必要が生じるからです。あなたに任せられた組織の規模が大きければその分、交渉の機会は多くなります。言わずもがなですが、交渉がうまくいけば仕事は円滑に進みます。管理職になったのであれば、皆さんにはスキルを高め「交渉の達人」を目指していただきたい。 では、交渉の達人とはどのような人物でしょうか。 私が交渉の達人と聞いてまず浮かぶのは、幕末から明治期にかけて活躍した外交官であり、政治家の陸奥宗光です。幕末、開国する際に日本は海外の列強諸国と「日米和親条約」に代表される不平等な条約を結ばされました。陸奥宗光は外務大臣時代、日本に不平等条約を結ばせていた全15カ国との間で条約改正を成し遂げた人です。この史実だけを取っても、非常に優れた交渉人であったことがうかがい知れるのではないでしょうか。 我々の記憶に新しいところでいうと、メジャーリーグベースボールの代理人、スコット・ボラス氏も敏腕交渉人として知られていますよね。ボラス氏は吉田正尚選手(ボストン・レッドソックス)の代理人として、5年総額で9000万ドル(約126億円=当時)という高額報酬を勝ち取りました。球団から見れば手強い、しかし選手にとっては非常に頼りがいのある交渉人です。 さて、「交渉がうまい」「交渉力が高い」とは、どういう状態を指すのでしょうか。それを探るために幕末時代に活躍した「もう一人の優れた交渉人」、勝海舟を題材に、その交渉の内容を見てみましょう。