出口調査の“ウラ”を見抜くコツは? 「議席予測」的中なら「社内表彰」も…テレビマンたちが語る「選挙特番」舞台裏
生数字を鵜呑みに出来ない理由
なぜ各局は出口調査の生の数字をそのまま報じないのか。それは、出口調査の結果が必ずしも実際の投票行動を反映しているとは限らないからである。例えば、「公明党の支持者は出口調査で本当のことを答えない」、あるいは、「共産党の支持者は期日前投票する割合が高いから、当日のデータは実際の票数より弱く出る」といったことは出口調査の定説とされている。 また、どの選挙の出口調査も「勝ち馬が強く出る」傾向がある。これは日本人の性格として「異端な投票行動をしたことがバレたくない」という深層心理が影響していると言われている。今回の選挙でいえば、「逆風の中でも自民党に投票したとは思われたくない」という心理が働き、調査員に対し、野党に一票を入れたという「普通の投票行動」をしたように回答をする。もちろん調査員は、だれが、どこに投票をしたのかはわからないように守秘義務を守るよう徹底されているが、地方にいくほど人間関係が狭いので、万が一漏れる可能性を恐れ、異端となる投票行動は明かさない傾向にあるという。 同様に公明党や共産党の支持者も、宗教、思想信条が表に出てしまう恐れがあるため、出口調査に答える可能性が低い、あるいは実際とは異なる投票行動をしたと回答するといわれている。今回の出口調査では参政党の数字も強く出た。愉快犯的に回答する層は、同党に投票したと答える傾向が強いため、と推測されている。このような様々な判断をへて最終的な予測議席数が固まるのだ。 数字を正確に20時に放送予測できた担当者は社内表彰を受けることもあるようだ。出口調査には自信があるというある局の政治部記者は「テレビ報道の使命である速報性を競い、正確性もなおかつ備わることになれば、放送記者には最高の栄誉なのだ」と胸を張る。
裏のトレンドは「守り」
かつて選挙特番の華は「当選確実をいかに速く打ち出すか」であった。「圧倒的な調査力を持つNHKに負けるな!」と次々と速報を出し、万歳三唱をどこよりも早く報道する。これが選挙報道だとされてきた。しかし、一方で、万が一当確を打ち間違えると、多くの議員を激怒させ、総務省からも厳しくお灸をすえられる。今や「打ち間違えは絶対しないように」「正確第一で」「無理はするな」と、幹部は檄を飛ばす。党全体の議席数は急ぎ出すことに心血を注ぐが、選挙区の当確は慎重にするというのが最近の選挙特番のトレンドだ。 出口調査には、1回の調査で数千万円は軽くかかるといわれている。そのため、最近のトレンドはコスト削減だ。例えば、今回の特番でも、日本テレビは「日本テレビ系列と読売新聞社でおこなった」と明示している。別の局の政治部記者は「かつてはテレビ局と新聞社は別々に単独で調査をしていたが、読売新聞と日本テレビは関係がいいだけに合同で調査を行い大きくコスト削減したようだ。朝日新聞がテレ朝と組まず、単独で調査をしていることと対照的だ」と話す。日経新聞とテレビ東京は合同世論調査をすることが多いが、今回の日経新聞電子版によれば、共同通信の調査であることを明示しており、独自の出口調査をしなくなったことがうかがえる。フジテレビとテレビ朝日も共同のデータを一部利用しているようだ。
視聴率はどの局に微笑んだのか?
さて今回、テレビ局が重視する視聴率はどこの局に微笑んだのか。選挙報道といえば圧倒的な強さを持つとされているNHKがやはり今回も強かった。20時から21時で個人視聴率が関東地区で11.3%。対して各局で特番のうちどの時間帯の数字を取るかは違うものの、近い時間帯を選ぶと日本テレビは6.0%、テレビ朝日は5.7%、日本シリーズと並走放送となったTBSは4.2%、フジテレビは4.0%、テレビ東京は1.6%となっている。 多角一丸(たかく・いちまる) 元テレビ局プロデューサー、ジャーナリスト デイリー新潮編集部
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