「盛り土」「地下空間」「汚染物質」 ── 豊洲市場問題とは何だったのか
築地市場は醸成された文化空間
築地市場は、四方を海に囲まれた日本水産業の象徴であり、大東京の食の流通の要であり、現代に息づく伝統文化である。日日行われる競りの情景は外国人観光客にも人気があり、玄人ばかりでなく素人も訪れて鮮魚を食する場所としても人気がある。 これは、長い時間をかけて醸成された腐葉土のような文化空間で、一朝一夕に出来上がるものではない。豊洲に移転すれば確実に失われる。つまり文化論的には、移転ではなく消失なのだ。 私は、日本の伝統的な木造建築などに培われた、精緻な技術と微妙な感性の合体を「精妙文化」と呼んでいるが、築地はまさに「精妙文化の空間」である。多くの日本人に、それが失われることに対する哀しみがある。豊洲移転問題は、実は、築地消失問題であり、都市化の進行による文化喪失の問題である。 そこに「都市化の反力」が生じないわけはない。 その精神的反力が問題を大きくしているというのが私の考えだが、だからこそ、国民の納得を得るために再検討する必要があった、とは言えるかもしれない。 今後も色々と問題が指摘されるかもしれないが、総合的に判断して、豊洲移転は実現するであろうし、そうすべきであろう。 それなら早い方がいい。 すべて潮時というものがある。 新しい市場に、あの粋で鯔背で威勢のいい仲買人の元気が満ち渡るのはいつのことか。