「ウェンブリーは雰囲気も含めて最高」WSD編集長とロンドンのパブでフットボール談義!「ヨーロッパリーグやカンファレンスリーグのほうが新鮮で楽しい」【英国人コラム】
「ロンドンはフットボールが香り立っている」
その人物と待ち合わせたのは、チェルシー地区のとあるパブ。スタンフォード・ブリッジから程近い、まずまず質の高いサンデーローストを出すその店で数年ぶりの再会を果たしたのは、『ワールドサッカーダイジェスト』の加藤編集長だ。ロンドン取材の打ち合わせを兼ねて、ついに実現した文字通りの「パブトーク」をお届けしよう。 ―――◆―――◆――― 加藤編集長:チェルシーやサウスケンジントンといったこの辺りは、落ち着いた雰囲気でとてもいいね。今朝はちょっと早起きしてホテルからスタンフォード・ブリッジまで散歩したんだけど、こんなところに住めたら最高だろうね。 スティーブ:ここは指折りの高級住宅街だからね。ロンドンは何年ぶり? 加藤編集長:チャンピオンズリーグのファイナル以来だから、12年ぶりだね。あのときはマンチェスター・ユナイテッド対バルセロナの一戦をウェンブリーで取材した。 スティーブ:2010─11シーズンだね。グアルディラオ率いるバルセロナが3-1でユナイテッドを破って、ラ・リーガとのダブルを達成したその瞬間を見届けたわけだ。 加藤編集長:そう。ウェンブリーは改修工事が07年に終わって、新しくなったばかりだった。シンボルのツインタワーはなくなってしまったけど、サッカーの聖地は雰囲気も含めて最高だったよ。 スティーブ:12年ぶりのロンドン、感想は? 加藤編集長:改めて実感しているのは、フットボールが香り立っているというか、とても身近に感じられるよね。スタンフォード・ブリッジを目の当たりにしたばかりだからかもしれないけど。 スティーブ:もっと下町の、それこそサポーターが集うパブに行ったら、その香りはもっと濃厚だよ(笑)。次はそっちに行ってみよう。 加藤編集長:どうなんだろう、この10年ほどでサポーターの気質なんかに変化はあるのかな? スティーブ:(ビールの)1パイントの値段はずっと上がり続けているけど(笑)、基本的に大きくは変わらないと思う。ただ、こんな話があってね。気質というわけでもないんだけど。 加藤編集長:気になるね、聞かせて。 スティーブ:僕と同世代の40~50代の友人たちの話だ。主にチェルシーのファンやマンチェスター・ユナイテッドのファンなんだけど、最近は楽しくないと、しきりとそうこぼすんだ。 加藤編集長:勝てないからね。 スティーブ:いや、それだけじゃないんだ。ヨーロッパカップ戦の対戦相手、とくにチャンピオンズリーグで当たる相手なんだけど、それが毎年ほぼ同じ顔ぶれで、遠征に行く場所も同じだから新鮮味がなくて楽しくないと、そういうわけ。 加藤編集長:なるほどね。 スティーブ:チャンピオンズリーグの出場チームはほぼ決まっている。レアル・マドリーにバルセロナ、バイエルン、パリ・サンジェルマン、イタリアのビッグ3。それに続く各国の2~3チームも多少の移り変わりはあっても、ほとんど同じ顔ぶれだ。ポルトガルやオランダの1~2枠も決まりきっているからね。サンティアゴ・ベルナベウやサン・シーロも、パリやバルセロナの街も、何度も足を運んでいると、さすがに感動や興奮が薄らいでいく。 加藤編集長:ベルナベウやサン・シーロという“非日常”も、さすがに“日常”になってしまうというわけか。ということは、ヨーロッパへの旅という視点で見ると、チャンピオンズリーグよりもヨーロッパリーグやヨーロッパカンファレンスリーグのほうが新鮮で楽しいと、そう言えそうだ。 スティーブ:そうなんだ。ベティス(セビージャ)にフランクフルト、AZ(アルクマール)と、ちょっと違った土地に行けるからね。これはチャンピオンズリーグの話になるけど、シティのファンはベオグラードやライプツィヒが楽しみだって言っていたよ。 加藤編集長:一般論として、イングランドのサポーターが好む遠征先は? スティーブ:やっぱり太陽があるところだね。ギリシャとか、スペインの南の方とか。 加藤編集長:同じことは国内についても言えるのかな? つまり、より地方のチームや長くトップリーグからが遠ざかっているチームが昇格してくれたほうが、アウェーゲームへの旅が楽しくなる? スティーブ:そうだね。ニューカッスルが不在のシーズンは味気なかったし、ブライトンがプレミアリーグに定着してよかったと思うよ(笑)。アウェーゲームの楽しみで言えば、むしろFAカップこそだね。 加藤編集長:ああ、なるほど。 スティーブ:だから、ファンががっかりするのは、ドローの結果、ホームゲームを引き当てたとき。とくに対戦相手が下部リーグのチームだったら、普段は行かないそこに行ってみたいと思うからね。おっと、もうグラスが空だよ。 加藤編集長:じゃあ、もう1パイント行こうか。This round’s on me! この一杯はおごるよ。 文●スティーブ・マッケンジー(サッカーダイジェスト・ヨーロッパ) Steve MACKENZIE スティーブ・マッケンジー/1968年6月7日、ロンドン生まれ。ウェストハムとサウサンプトンのユースでプレー経験がある。とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からのサポーターだ。スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝した。現在はエディターとして幅広く活動。05年には『サッカーダイジェスト』の英語版を英国で手掛け出版した。 ※『ワールドサッカーダイジェスト』2024年1月4日号より転載 【PHOTO】バロテッリ、スアレス、バートン…ピッチ内外を騒がせるも憎めない悪童30選!