教員採用試験で合格者「7割辞退」の高知県の波紋 現代の若者には通じない「やりがい」「教職への憧れ」
男性教員の話では、教員試験を受ける場合、出身大学と同じ都道府県や、地元の都道府県の試験を受けることがほとんどだという。滑り止め受験をしない理由については、「自治体によって試験内容が違い、対策も異なってくるから」とのこと。 文部科学省が公開したまとめによると、23年度に採用された公立学校教員の採用倍率は、3.4倍(前年度3.7倍)と過去最低を記録した。このうち、小学校は2.3倍(前年度2.5倍)ともっとも低かった。 別の30代男性教員がこう打ち明ける。 「風通しが悪く相談できない環境にある学校も少なくない。やる業務が多いのに、残業代もでない。子どものためにしてあげたいことはたくさんあるが、取捨選択をしないと自分が壊れてしまう」 ■96時間残業も… 公立学校の教員には残業代が支給されない代わりに、基本給の4%が一律に上乗せされることが「教員給与特措法」(給特法)として定められている。 日本教職員組合(日教組)が昨年11月に公開した意識調査では、自宅への持ち帰り仕事を含むと、公立学校で働く教員の残業時間は月平均で96時間だった。過労死ラインとされる月80時間を超えており、“残業代”についても十分な額は支給されていない。 こうした逼迫した状況に、精神疾患を抱える教員が増えているという。文科省の24年の調査では、精神疾患を理由に休職した教職員が6539人いた。 教員のメンタルヘルスに詳しい関西外国語大学外国語学部の新井肇教授は、 「教員は教科を教えるほか、生徒指導や学級事務、部活動の指導などの役割も抱えていて、仕事量が膨大だ。そのため、精神的に疲れてしまう教員もいる。スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの常駐も必要」 と主張する。 2021年に義務教育基準法が改正され、学級編制は5年かけて40人から35人に引き下げられた。この点について新井教授は、こう話す。 「現場の業務量がいまだに多く、行き届いた教育をするためには、あと5人の引き下げが必要。そのためには財源がさらに必要だが、文科省の予算は微増のみで教員の『なり手不足』が解消されない」 そして、こう続けた。
「教員確保はこれまで、仕事のやりがいや教職への憧れで成り立ってきたが、今の若い人たちは働きやすさなどの労働環境を重要視している」 担当者は、「教員のなり手不足の解消のため、働き方改革や給与制度の改正が必要。財源を確保できるよう、財務省に強く要請する」と話した。 (AERA dot.編集部・板垣聡旨)
板垣聡旨