連載『lit!』第120回:The Weeknd、テイト・マクレー、Bon Iver……解体や循環の中で生まれるグローバルミュージック
Tate McRae「It's ok I'm ok」(9月13日リリース)
「greedy」、「exes」の大ヒットによって一躍ポップシーンのフロントランナーへと躍り出たテイト・マクレー。現在は10月の来日公演を含む最新作『Think Later』のワールドツアーの真っ最中だが、早くも約10カ月ぶりとなる新曲が登場した。ダンス映えする引き締まったポップサウンドをバックに、元カレの新恋人に対して〈It's okay, I'm okay, I don't really gotta say. It's okay, you can have him anyway.(心配しないで。大丈夫。これ以上なにか言うつもりもないし。安心して。とにかく彼を手にして。)〉と繰り返す(全然大丈夫じゃなさそうな)フックが印象的な本楽曲は、やはり彼女らしいキャッチーな魅力が詰まった見事な仕上がりで、TikTokなどでのバイラルヒットにも期待のかかるところだ。 とはいえ、この曲について紹介するのであれば、なんといってもMVに触れなければ話にならないだろう。テイトの魅力でもあるダンスシーンをふんだんに盛り込みつつ、「I♡ME」と書かれたタンクトップを着用してストリートを練り歩いたり、警察にほぼ全裸で逮捕されるシーンが強烈なインパクトを与える今回のMVは、まさしく名声を謳歌するものであると同時に、MV史に燦然と輝くブリトニー・スピアーズの作品群を彷彿とさせる。テイトとブリトニーといえば、先日の『2024MTVビデオ・ミュージック・アワード』に登場した際にも、ブリトニーが2001年の同アワードで着用していたルックを再現したことで話題となっていたように、テイトにとっての最大の影響源の一つに他ならない。ブレイクによって得た影響力を惜しみなくブリトニーへのリスペクトに捧げるテイトの姿は、まさにポップミュージックの美しい循環だ。
Bon Iver「S P E Y S I D E」(9月20日リリース)
テイラー・スウィフトやThe Nationalとの共演を挟みつつ、単独作品としては約5年ぶりとなる新作EP『SABLE』を10月18日にリリースすることをアナウンスしたBon Iver。2020年から2023年にかけて制作された3つの楽曲を収録した同作品は、Bon Iverというジャスティン・ヴァーノンがこれまでに築き上げてきたプロジェクトを解体し、元来持っていた要素に焦点を当てたものであるという。その言葉を裏付けるように、先行楽曲として発表された「S P E Y S I D E」は、これまでの複雑に作り込まれた作風からは明確に距離を置いた、声とギターを中心としたフォークソングとなっている。 一つのメロディを反復しながら、これまでに自身が傷つけてしまった人々に対する謝罪の想いを歌い上げるジャスティンの姿は、素朴で親しみやすい印象を与えると同時に、あまりにも繊細で脆い質感に満ちており、剥き出しになったBon Iverという存在の凄みを改めて思い知らされる。それは、(おそらく本人はまったく意図していなかっただろうが)近年のポップシーンにおけるカントリーやフォークのムーブメントとも呼応しており、『COWBOY CARTER』におけるビヨンセがそうであったように、本作もまた、フォークというジャンル自体に対して、その本質を突きつけているように感じられる。