【やさしく解説】石破・新政権の「顔ぶれ」から見えてくる“経済政策の狙い”とは?
重要ポスト、総務大臣の人事から見えてくること
もうひとつの重要ポストは総務相である。新しく大臣に就任したのが村上誠一郎氏だったことから、永田町には激震が走った。村上氏は安倍政権時代、安倍氏の強権的な政治手法を強く批判してきた経緯がある。安倍氏の後継者を自認し、今回の総裁選で石破氏と激しく争った高市早苗氏とは対極にある人物と言えるだろう。 加えて言うと、総務省は高市氏が政治基盤のひとつとしてきた省庁であり、その総務省に村上氏を送り込んだのは、名実ともに安倍政治の流れを断つという石破氏の政治的意向と考えられる。 一方で、村上氏は行政改革担当大臣・地域再生担当大臣の経験があり、地方行政については一定の知見がある。何より石破氏との信頼関係が強固であることから、村上氏が(石破氏が目玉政策として掲げる)地方創生の司令塔となるのはほぼ確実と言えるだろう。 実務面では、官邸運営のカギを握る事務の内閣官房副長官に、総務省の大物次官と呼ばれた佐藤文俊氏が就任している。政治面では村上氏が、実務面は佐藤氏が中心となって、地方創生策を実施していくと見られる。 石破氏は地方を意識した上で、最低賃金を2020年代に全国平均で1,500円に引き上げることを公約として掲げた。これは地方の零細企業にとってはかなり厳しい数字であり、これは単純なコスト削減では捻出できない水準である。各企業は生産性の向上による付加価値拡大に本気で取り組む必要が出てくるはずだ。 海外に流出した製造拠点の国内回帰を促し、これを地方経済の起爆剤とすることで賃上げを実現していく方向性と考えられる。石破政権の賃上げ政策が動き出した場合、半導体などを中心に製造業への波及効果は大きいだろう。
中長期的には安全保障分野での動きが顕著に
石破氏は、外交・安全保障の分野において、日米地位協定の見直しやアジア版NATOの創設などをうたっている。実現のハードルは極めて高く、党内から疑問視する声も上がっていることもあり、同構想は10月4日に行われた所信表明演説には盛り込まれなかった。 どの程度、構想を具現化できるのかはともかく、閣僚・党人事を見る限りでは、石破氏に近く、安全保障に強い人物が多数、登用されており、石破氏の力の入れようが分かる。 安全保障の要となる防衛大臣には、石破氏と極めて近く、過去に防衛大臣や防衛庁長官、安保法制担当大臣などを務めた中谷元氏を充てた。党内ではもっとも安全保障分野に精通した人物のひとりであり、まさに石破カラーの人事と言って良いだろう。党内で政策のとりまとめを行う政調会長には、同じく防衛大臣経験者で、安全保障に詳しい小野寺五典氏を就任させたほか、政務の首相秘書官には元防衛審議官の槌道明宏氏を据えている。 官房長官の林芳正氏は、防衛大臣や外務大臣を歴任した外交・安全保障のプロであり、石破氏とは派閥が異なるものの、若い時から安全保障に関して勉強会を重ねてきた。石破氏は党内基盤が弱く、自身の得意分野である安全保障関係の人脈がもっと濃密とされる。良くも悪くも、石破氏が政策面でつながった人物を登用した内閣であり、安全保障人脈の重用はそのあらわれと言えるだろう。 前述のように、石破氏の構想を実現するためのハードルは高いが、もし具現化すれば、日本の安全保障やアジアでの立ち位置は大きく変わると考えられる。防衛産業はもちろんのこと、アジアでの日本企業の活動にも影響を与えるだろう。
執筆:経済評論家 加谷 珪一