行きすぎた承認欲求の呪縛から解放される方法
■過剰な承認欲求のせいで価値観を曲げていないか 筆者のクライアントであるサイモンは、親切で協働的なリーダーと評判で、周囲から慕われていた。部下の家族の様子を尋ねたり、チームに負荷がかかりすぎていないか確認したり、困難な時にメンター役を買って出たりするタイプの上司だ。従業員は地位の高低にかかわらず、サイモンのことを話しかけやすく、自分の意見を心から気にかけてくれると感じていた。 だが、愛想のよい外面とは裏腹に、サイモンは根深い承認欲求と闘っていた。ミーティングでアイデアを提案する時も、自信を持ってそれを推すのではなく、出席者の顔色をうかがっていた。同僚からのOKらしき仕草を見れば肯定感を覚えるが、中立的な意見や、ごくわずかなしかめ面でも見ようものなら、自己疑念のスパイラルに陥った。自分の専門性を信頼すべき理由が十分あっても、部門を超えたパートナー全員の同意を得られなければ、最終決定を下すことをためらった。その時間はインプットを求めているように見えたが、実のところ、安心を求める行為であり、そのために決断が数週間、場合によっては数カ月遅れることがよくあった。 転機は360度評価制度の会議で訪れた。サイモンが誰かを怒らせたり、厳しいと思われたりするのを恐れて、ストレートなフィードバックをしたり、問題に正面から対処したりすることを躊躇しているために、チーム内には明確な方向性や境界線がなくなっていると指摘された。サイモンの優しさを高く評価する人もいたが、チームはさらに毅然としたリーダーシップを切望していた。これはサイモンにとって、心の折り合いをつけるのが難しい事実だった。サイモンが善意でやっていたことが、リーダーとしての彼の有効性やチームの成功を妨げていたのだ。 筆者は、周囲の要求に敏感なリーダーを「繊細な努力家」と呼んでいるが、サイモンのように過剰な承認欲求を持つリーダーが本人とチーム、そして組織全体にもダメージを与えている例は非常に多い。もちろん、周囲に認められ、評価されたいと思うのは、地位や肩書きに関係なく、自然で健全な欲求だ。だが、意思決定や自尊心、総合的な自己評価が、周囲の評価に過度に依存するようになる、あるいは承認を得る(または不承認を避ける)ためだけに自分の価値観や誠実さを曲げるようになるのは行きすぎといえる。 では、周囲に配慮しつつ自分のことを信頼する「ちょうどよい」バランスは、どうすれば見つかるのか。本稿では、いわゆる「金星」や「Aプラス」を獲得することから自分を解放する方法をいくつか紹介しよう。 ■一時停止し、状況分析する 日常業務に追われていると、物事への反応が習慣に則したものになりがちだ。ストレスやプレッシャーがかかっている時は特にそうだろう。そこで一時停止をして、状況を分析してみよう。日常的な行動パターンを破り、自分の自動的な反応が、チームや組織にとって最善な状況を本当に反映しているのか、それとも周囲に好かれたいという個人的な願望を反映しているのか分析できるはずだ。この内省は、内的動機(個人の価値観、倫理観、純粋な興味など)と外的動機(称賛欲求や、否定的評価への恐怖、周囲への適合欲求など)を区別するのにも役立つ。状況分析をはさむと、衝動と理性的な思考のバランスを取る助けにもなる。恐怖心から、論理的で長期的な思考が曇らないようにする方法だ。 次に選択の機会に直面した時は、「この行動を取るのは、正しいと思うからか、それとも、特定の見方をされたいからなのか」と自問してみよう。そうすると、純粋に謙虚で、勤勉で、あるいはインクルーシブ(包摂的)でありたいがゆえの選択なのか、それとも過剰な承認欲求による選択なのかを見分けることができるだろう。みずから「悪魔の代弁者」を演じて、別の角度から思考をかき混ぜてもよいだろう。批判的な部外者として、自分の思い込みや決断に異論を唱えてみるのだ。 ■まず自分の意見をまとめる 自分の見解がしっかり確立されていないと、周囲の意見に流されたり、影響を受けたりしやすい。純粋に同意するからではなく、チームプレーヤーとして見られたいがために、その場で最も説得力のある人の意見に賛成してしまったりする。したがって、ミーティングや重要なディスカッションの前には、関連情報を読み込み、よく考え、自分なりの結論を出そう。自分の考えがまとまるまでは、他人のフィードバックを読んだり、相談したりするのは避けよう。 自分の意見を形成したからといって、それを1ミリたりとも譲らないとか、頑固になる必要はない。重要なのは、自分の考えを明確にすることだ。自分の意見には利点があり、自分自身の経験や知識に基づいていることを認識すると、他人から承認を得たいという気持ちを抑えることができる。また、新たな情報が入ってきた時は、雰囲気に左右されることなく、その情報に基づき思慮深くて意識的なスタンスを変えることができる。