新世代スターの共演に絶好のロケーション!“ロマコメ新時代”の到来を告げる『恋するプリテンダー』はなぜ旋風を巻き起こしたのか
2023年末に公開されるや予想を上回るヒットを記録し、全世界興収は2億ドルを突破。“ロマコメ映画”の新時代到来を告げる作品として大きな注目を集めた『恋するプリテンダー』が、いよいよ日本公開。ラブストーリーが下火と言われている昨今、なぜ本作はこれほどの大旋風を巻き起こしたのか。過去の名作ロマンティックコメディ映画にも通じるポイントを紐解きながら、その魅力を探っていこう。 【写真を見る】ロマコメの名手×新世代スターのタッグ!鉄板シチュエーションと名作ロマコメの要素が成功のカギに? 弁護士を目指してロースクールに通うビー(シドニー・スウィーニー)は、ある日、街角のカフェで出会った金融マンのベン(グレン・パウエル)と最高の初デートをしたものの、ちょっとした行き違いで一気に恋心が冷める。数年後、オーストラリアで行われた姉の結婚式に出席したビーは、ベンとまさかの再会。皆が心躍らせるリゾートウェディングのなかで険悪ムードとなった2人だったが、復縁を迫る元カレから逃げたいビーと、元カノの気を引いてよりを戻したいベンの利害関係が一致。2人は恋人のふりをする“フェイクカップル契約”を結ぶこととなる。 ■ロマコメの名手と、“新女王”がドリームチームを結成! 犬猿の仲の男女がひょんなことから急接近する鉄板シチュエーションが用意されている本作でメガホンをとったのは、ロマコメ映画の名手として定評のあるウィル・グラック監督。いまやオスカーに2度輝く名女優となったエマ・ストーンの出世作となった『小悪魔はなぜモテる?!』(10)や、ジャスティン・ティンバーレイクとミラ・クニスが共演した『ステイ・フレンズ』(11)でスマッシュヒットを記録したグラック監督が、その持ち前のコメディセンスを活かして久々のロマコメ映画に挑む。 そんなグラック監督が「これまで仕事をしてきたなかで最もおもしろい2人」と太鼓判をおしたのが、「ユーフォリア/EUPHORIA」で大ブレイクを果たしたシドニー・スウィーニーと、『トップガン マーヴェリック』(22)でハングマン役を演じたグレン・パウエル。自ら製作総指揮も兼任したスウィーニーは、本作のプロジェクトを始めるにあたってグラックに監督を依頼。さらに相手役として自らパウエルを指名したとのことで、まさに“第一希望”が叶ったドリームチームといえよう。 ロマコメ映画にとって重要なのは、やはりメインカップルのキャスティングだ。そしてそれ以上に重要なのは、ヒロインを誰が演じるのかということ。女性の観客がメインターゲットとなりやすいロマコメ映画では、いかに観客がヒロインに共感できるか/心奪われるかが成否を分ける大きなポイントになってきた。それを示すように、1990年代以降のロマコメ映画ブームを駆け抜けてきた女優たちはまさに大物ぞろい。 例えばブームの火付け役となった『恋人たちの予感』(89)のメグ・ライアンは、その後も『フレンチ・キス』(95)や『ユー・ガット・メール』(98)、『ニューヨークの恋人』(01)などに出演し、“ロマコメの女王”の座をほしいままにした。また『プリティ・ウーマン』(90)のジュリア・ロバーツは、ロマコメ映画にも出演しながら順調に演技派女優として開眼。ブレイクから10年でオスカー女優の仲間入りを果たした。 この2人に続くように、『メリーに首ったけ』(98)のキャメロン・ディアスや『25年目のキス』(99)のドリュー・バリモア、『ブリジット・ジョーンズの日記』(01)のレネー・ゼルウィガー、『10日間で男を上手にフル方法』(02)のケイト・ハドソンなど、次々とスター女優を輩出。いわばブレイク女優の登竜門的ジャンルとして確立していった歴史がある。 そんなロマコメヒロインに果敢に飛び込んでいったスウィーニーは、女優業もさることながら様々なブランドの広告塔に抜擢され、SNSでは2000万人以上の総フォロワー数を抱えるなどハリウッドで最も勢いのあるZ世代のニューヒロイン女優。ロマコメ界の“新女王”になるに相応しい逸材だ。その相手役として抜擢されたパウエルもほどよく脂が乗ってきたタイミングであり、やはりロマコメ映画は最旬キャストの化学反応があってこそ。 しかも、結婚式という舞台設定から『ベスト・フレンズ・ウェディング』(97)がキャストたちのインスピレーションの源になったという話もあり、同作に出演していたダーモット・マローニーとレイチェル・グリフィスが両親役として登場。名作ロマコメ映画への敬意が込められていることで、現代の観客に受け入れられる作品であると同時に、かつてのロマコメ映画ブームを楽しんできた観客にとっても見逃せない一本となっている。 ■リゾートウェディング気分を満喫!監督激推しのロケーション もう一つロマコメ映画に欠かせないのは絶好のロケーション。従来のロマコメ映画では比較的現実の生活に近しいシチュエーションが好まれやすい傾向にあり、それこそ『アパートの鍵貸します』(60)の時代から、ニューヨークに代表されるような都会的なロケーションが目立ってきた。 しかしさらに遡っていけば、説明不要のロマコメ映画の名作『ローマの休日』(53)があり、近年ではエスニックな雰囲気を携えたシンガポールを舞台にした『クレイジー・リッチ!』(19)が大ヒットを記録(結婚式に出席するために渡航する点でも本作と共通している)。こうした普段の生活から離れた場所、しかもそれが非日常的であればあるほど映画的な魅力は高まっていく。 本作の舞台となるのはオーストラリアのシドニー。グラック監督は「ピーター・ラビット」シリーズの撮影で訪れたオーストラリアにすっかり魅了されたようで、「シドニーで4か月過ごしたかったので、この映画の舞台をシドニーに設定しました」と本音をぽろり。「自分勝手だとは思いますが、キャストたちも私と同じくらい、この場所を好きになるだろうという自信がありました。そして実際、そうなりました」と語っている。 劇中にはオペラハウスはもちろんのこと、シドニー・ハーバー・ブリッジやボンダイビーチ、パームビーチ、ザ・ロックス、シドニー・クリケット・グラウンドといった、グラック監督がその魅力を伝えたくてたまらないシドニーを象徴する場所が次々と登場。さらにシドニー湾を航行するスーパーヨットの上でも撮影が行われるなど、“観光映画”としての側面も有している。まさにこの映画を観れば、ビーとベンら登場人物たちと一緒にリゾートウェディングに出席してオーストラリアの絶景を満喫した気分を味わえること請け合いだ。 ■TikTokで口コミが急拡大!異例のサプライズヒットに 北米では公開初週の週末興収ランキングでは4位スタート、しかもオープニング興収は600万ドルとまずまずの滑りだしだった本作。しかし翌週、翌々週と3週続けて右肩上がりの週末興収を記録。そして公開18日目にはデイリー興収ランキングで1位を獲得することになる。上映館数を急激に増やした作品であれば珍しい話ではないが、本作の場合はそうではない。まさに異例のヒットといえよう。 その後押しになったのは、公開直後から本作に惚れ込んだ多くのインフルエンサーたちが猛プッシュする動画をTikTokなどのSNSに投稿したこと。これがきっかけで多くの若者層が劇場に足を運んだことはいうまでもない。アメリカの批評集積サイト「ロッテン・トマト」によれば、一般の観客からの好意的評価の割合は87%と抜群に高い。 往年のロマコメ映画ファンも、若い世代をも虜にした、まさに“王道中の王道”を極めることに成功した『恋するプリテンダー』。いったいどれほど魅力的な作品になっているのかは、実際にその目で確認してみるのがいいだろう。肩の力を抜いて映画館に足を運び、絶景を舞台に繰り広げられる愉快痛快なロマコメ展開を浴びたら、この上なく清々しい気分を味わえること間違いなしだ。 文/久保田 和馬