【景気刺激策で給与は上がらない?】日本で財政政策による効果が低くなっている社会的要因
「金利のある世界」「物価上昇」に対し、期待される賃金の上昇。その対策として、国による景気刺激策があるが、かつてほど効果が見込まれないという。 生産や消費を活性化させるために〝定番〟とも言われていた対策になぜ、限りが見えてきているのか。著書『一人負けニッポンの勝機』(ウェッジ)の一部を紹介する。
財政政策がGDPへ影響される仕組み
財政政策には、景気を良くする拡張的な政策と、景気を冷やす緊縮的な政策があります。拡張的財政政策は、政府支出の増加や減税などを通じて、物価を上昇させ、国内総生産(GDP)を増やします。一方、緊縮的な財政政策は、政府支出の減少や増税により、物価を低下させ、GDPを減少させます。 ところで、財政政策の効果はどのくらいなのでしょうか? 財政政策がどの程度経済に影響を与えるかについては、財政政策の「乗数効果」という概念があります。政府支出の増加や減税などの拡張的な財政政策が行われると、それによって生じる需要が、さらに別の需要を生み出し、経済全体の需要を増やすことがあります。 これが財政政策の乗数効果です。乗数効果は、標準的な経済学の教科書でも紹介されるもので、景気対策としての財政政策の理論的根拠となっています。 具体例として、公共投資の効果を考えてみましょう。政府の公共投資によって生産と雇用が増えることで、国民の所得も増えます。そして、この所得の増加により、国民はより多くの消費をすることができます。
この消費の増加は、再び生産と雇用の増加につながり、国民所得がさらに増加するという流れが生まれます。当初の公共投資額を上回る需要の増加、そして所得、生産の増加が生じるということです。 このような財政政策による効果を表す指標が「財政乗数」と呼ばれるものです。財政乗数は、政府支出の増加や減税などの政府の活動が、どれだけGDPの変化をもたらすのかを表します。財政乗数は、GDPの変化量を政府支出や税金の変化量で割ることで求めることができます。