アニメ作品よりも「生」を強く感じさせる舞台「未来少年コナン」
海の向こう、英ロンドンでは「千と千尋の神隠し」の舞台が大きな話題となっているが、東京・豊島区の東京芸術劇場でも、宮﨑駿監督作品の舞台化が上演されている。それが、「未来少年コナン」だ。原作アニメは宮﨑監督が初めて演出を担当した作品で、1978年にNHKで放送された。 物語の舞台は、20XX年の地球。超磁力兵器により地殻の大変動が起こり、大陸のほとんどは海の底に沈んでしまった。それから20年後、「のこされ島」で育ての親・おじい(椎名桔平)と暮らしていた少年・コナン(加藤清史郎)は、海に打ち上げられた少女・ラナ(影山優佳)を見つける。程なくして、工業都市・インダストリアからやって来た行政局のモンスリー(門脇麦)は、ラナを連れ去ってしまう。 コナンはラナを助けるために島を脱出。途中で出会ったジムシー(成河)やインダストリアから来た船長・ダイス(宮尾俊太郎)らと共にラナ奪還に向かう。その裏では、行政局長・レプカ(今井朋彦)が、再び地球を恐怖に陥れようとする計画を進めていた…。 記者は、宮﨑監督作品の中では本作が最もお気に入りとあって、製作が発表された時から大きな期待を抱いていた。オープニングの演出にはやや戸惑ったが、ストーリーが動き始めると一気に引き込まれた。何度もアニメを見ている身としては、所々で「このセリフ、あったよな…」と思い出してニンマリ。全26話の最後までが描かれているが、ストーリーをはしょった感覚や物足りなさは無く、「もう一つの『未来少年コナン』」として完成された作品だと感じた。 ところで、アニメ作品が実写ドラマや映画となった際には賛否、というより否定的な意見が出ることが多い。これは、見る側が「キャラクターが似てるかどうか」「物語の展開がきちんと再現されているか」を追い求めてしまうからだと思う。だが、舞台は全部を演じるわけにはいかず、セットにも限界がある。そのため映像のような忠実さではなく、象徴的なシーンをどう見せるかというインパクトが重要になってくる。 本作では、登場人物それぞれが「人間は一人では生きてはいけない。誰かのために生きる」と気付いていくシーンを軸に展開していく。宮﨑監督のアニメも自然との共生と同時に、そのテーマが描かれているのだが、舞台の方がサイドストーリーがそぎ落とされている分、よりメッセージがストレートに伝わって来る気がした。 ところで、本作は「ミュージカル」とはされていないものの、劇中では歌唱シーンが何場面か登場する。キャストは全員、見事な歌声を披露しているが、とりわけ加藤には驚かされるかもしれない。ただ、加藤の舞台デビューは2011年のミュージカル「レ・ミゼラブル」。バリケードで非業の死を遂げる少年・ガブローシュを演じ、当時も子役ながら美声を響かせていた。 16日まで同所で。大阪公演は28~30日、梅田芸術劇場で上演される。(高柳 哲人)
報知新聞社