センバツ高校野球 常総学院 出場への軌跡/上 積極起用、応えた投手 /茨城
◇監督、一発勝負の感覚磨き 2023年10月、曇天のひたちなか市民球場で迎えた秋季県大会決勝。常総学院の島田直也監督(53)は選手に「秋のタイトルが欲しい」と語りかけると、共にベンチに入る松林康徳部長(38)にある決意をささやいた。3年前の反省を糧に生まれた島田采配は、プレーボール直後に球場を驚かせることになる。 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 同校OBで、プロ野球の日本ハム、大洋(現DeNA)などでプレーしてきた島田監督は20年夏、鳴り物入りで就任した。 直後の秋季県大会決勝・鹿島学園戦。常総学院は初回、先発投手の制球が定まらない間に3点を失った。延長戦には持ち込んだが、十一回に力尽きた。「優勝を狙っていたが、動くのが遅すぎた」と反省する。関東大会で準優勝して21年春の甲子園切符こそつかんだものの、その後は同年秋の県大会で初戦敗退するなど勢いを欠いた。シーズンを通して戦うプロのリーグ戦に慣れ、「一発勝負のトーナメントの感覚をつかむのに四苦八苦してきた」と言う。 3年ぶりに臨んだ23年秋の決勝、相手はくしくも同じ鹿島学園と決まった。あらゆる展開を考え抜いた指揮官が直前に出した答えは「先頭打者に四球を出したらピッチャーを代える」。迷いを断ち切るため、松林部長に「もし動かなかったら言ってくれ」と念を押してから試合に入った。 初回、先発投手は緊張から先頭打者に四球を与えた。2番への初球もボール。島田監督はタイムを要求し、投手交代を告げた。僅か5球の出来事に球場全体がざわめいた。 積極采配は当たる。そこから五回までつないだ3投手は再三得点圏に走者を背負ったが、要所を締めて本塁を踏ませない。六回からエース小林芯汰(2年)が登板し4回を7奪三振。8―0で零封し、4年ぶり10回目の優勝を果たした。 この試合を機に頭角を現した控えがいる。3番手に登板した斎藤一磨(同)は、最速135キロながら、スピンの効いた直球と100キロ台のカーブを駆使して、2回と3分の2を被安打0で抑えた。 「采配の失敗で流れが変わることを恐れていたが、高校野球は流れが変わるものだと開き直って、攻めの采配を取れるようになった」と心境の変化を明かす島田監督。関東大会でも3試合で起用した斎藤は3試合計8回を自責点0。大会を通じて計4人をマウンドに立たせた。采配の変化に投手陣は奮起し、最速145キロを誇る大川慧(同)や左のサイドハンド平隼磨(同)らも登板機会をうかがう。 3年ぶりの聖地に、指揮官は「一発勝負で勝ち抜くには、選手の能力以上の力が求められる。過去の成績だけでなく、調子の良い選手を見極め、勝利をつかめれば」と、定石より早い動きも辞さない。一方、1987年夏の甲子園で準優勝した自身を超えようとする投手陣に向ける目は温かい。「起用するのは監督の責任。気負わず、試合を楽しみながら投げてほしい」【川島一輝】