闇ペットビジネスの実態「殺さないで死ぬまで飼う。僕みたいな商売、必要でしょう」…巨大化するペット市場で横行する「回しっこ」「引き取り屋」とは
既に、目が見えなくなっている…
一方で動物愛護団体の依頼で現地を確認した獣医師は、適正飼育から大きく逸脱した状況だったと指摘する。 「換気できる窓が見あたらず、全体に薄暗くて十分な採光が確保されていない。いずれの建物も、鼻をつくような糞尿のにおいが充満しており、犬たちが暮らすケージに清掃の形跡は見られなかった。脚に糞を付着させている犬も多くいて、長毛種では犬種が判断しがたいほど全身が毛玉に覆われ、四肢の動きが制限されている犬も確認した。皮膚炎や眼病などの可能性がある犬がいたが、適切なケアが行われている様子はなかった」 このような環境で飼育されている犬たちがどうなってしまうのか。私が朝日新聞に引き取り屋のことを初めて書いたのは2015年3月24日付朝刊だ。記事には、14年冬に動物愛護団体が内部の様子を撮影した写真を添えた。 同じ動物愛護団体が15年12月に再び、この引き取り屋の様子を確認、撮影した。そうしたところ、記事に掲載した写真に写っているパピヨンと見られる犬がまだ、せまいケージに入れられたまま飼育されていた。その様子が写っているのが、次の写真だ。 被毛の状態がかなり悪く、四肢や臀部(でんぶ)については脱毛も見られる。この写真が撮影された際、動物愛護団体とともに内部を確認した獣医師はこう話す。 「記事に載った写真に写っていたパピヨンと見られる犬は、皮膚炎にかかっているのになんの治療もなされていませんでした。あの環境ですから、ノミやダニなどの感染からは逃れられません」 このパピヨンも含め、散歩など適切な運動をさせてもらっていないことが明らかな犬がほとんどで、なかには獣医師による治療が必要な状態の犬も少なくなかった――と指摘する。いくつかの事例をあげる。 爪が伸びっぱなしで、毛玉に覆われている犬。 精神疾患の一つである、常同障害の症状が出ている犬。 緑内障のため、眼球が突出している犬。 既に、目が見えなくなっている犬。 さらには、狭いケージの床面は金網状になっているため、前脚が湾曲したり、後ろ脚が骨格異常を起こしていたり、という犬たちも……。列挙していけばキリがないほどに、悲惨な状態だった。獣医師は言う。 「狭いケージに入れられたまま、適切に管理されずに飼養されているために、犬たちはボロボロの状態でした。猫も数多くいて、巻き爪が肉球に食い込んでいる子や、耳の後ろをかきむしったために肉が露出している子もいました。しかもケージには糞尿が堆積(たいせき)しており、本当に最悪の環境。動物愛護法に違反しているのは明らかでした」 白取氏は2016年4月、公益社団法人「日本動物福祉協会」から刑事告発された。告発を受けた栃木県警は捜査をすすめ、同年10月に動物愛護法違反と狂犬病予防法違反容疑で、宇都宮地検大田原支部に書類送検した。 栃木県警によると、白取氏は15年12月10日~16年2月1日の間、犬や猫を飼育する施設の清掃や汚物処理を十分に行わず、犬10匹と猫5匹を皮膚病などに感染させ、虐待した疑いがあったという。 また、白取氏は16年4月5日~5月4日の間、犬1匹に狂犬病の予防注射を受けさせなかった狂犬病予防法違反(未登録・予防注射の未接種)の疑いもあったともする。栃木県警は白取氏について、起訴を求める「厳重処分」の意見を付けた。 17年7月27日、栃木県大田原簡裁は白取氏に狂犬病予防法違反(未登録・予防注射の未接種)の罪で10万円の罰金を支払うよう命じた。 動物愛護法を巡っては、繁殖業者やペットショップなど第1種動物取扱業者に対して、地方自治体が法律を適切に運用しようとしない事例が散見されてきた。引き取り屋の白取氏については栃木県警が書類送検した後も、栃木県動物愛護指導センターはこの業者の第1種動物取扱業登録の更新を認めるなどしており、行政による業者の取り締まりが有名無実化している実態が改めて浮き彫りになった。 その原因を、行政職員の多くが「動物愛護法には具体的な数値規制がないことが大きい」と指摘する。 文/太田匡彦
---------- 太田匡彦(おおた まさひこ) 同業他社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。ペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わり、特別報道部専門記者などを経て21年から文化くらし報道部記者。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。 ----------
太田匡彦
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