「短歌にすれば、怒りも嫌な感情も愛おしくなる」坂口涼太郎が実感する、日常を文章にすることで生まれる変化
全く違った解釈が生まれる、短歌の面白さ
ーーこの歌はどうでしょう。 欲望と我慢をまぜて焦げるまで今日のわたしを讃える時間 なんだかすごい情念を感じます。 坂口:これ、もんじゃの歌なんですよ。
ーーうそでしょ(笑) 坂口:欲望と我慢っていうのは、小麦粉と水のことです。もんじゃって焦げるまでちょっと待たなきゃいけない。もうちょっと焦げた方が美味しいから! とか言って、ちまちまビールとか飲みながら、この欲望を我慢している私は偉いよね。美味しくいただけるまでちゃんと待てる私を称えようぜっていう。 ーー想像した意味とはだいぶ違いますが、いいですね。 坂口:僕だって、もんじゃの歌を選んでくれるとは思ってないですよ(笑)。でも選んでくれたわけじゃない。これをさ、もんじゃだと思わなかったでしょ? ーー思わなかったです。もっと欲望と情念の話だと思ったんですよ(笑)。 坂口:そう感じるのが、短歌の面白さです。もんじゃが焦げるまで待つ時間っていうのも、人生において何かに例えられる。そういうことの連続なんですよね、短歌って。例えば電車を待っている時間とか、そういうことがアイディアの種になるんです。
どんな比喩表現をするかに人間性が出る
ーー日常の描写が、自分の人生とリンクする瞬間があるわけですね。 坂口:そのまま小麦粉と水だったら、多分面白くなかった。あえて違う言葉にして、想像させる面白さ。 ーーなるべくまっすぐ言わないということですか。 坂口:それは本当にときによります。何の比喩もなくまっすぐに言った方がいいときもあるんです。そのまま言ったらあんまり面白くないなっていうときは比喩を使ったり言葉遊びをするという感じかな。 ーーその塩梅もだんだん養われていくんですね。 坂口:多分作っているだけでは駄目で、人の作品を読むことで養われていくことだと思います。 何に例えるのか、比喩の部分に、その人の面白みというか、性格とか人間性が出るんです。私にとっては当たり前だけど、多分その当たり前のことって、誰かに話したとき、そうなんだ! とか、そんなことをしてるの? って思うようなこと、必ずある。 私はこういう思いで生きてますとか生活をしてますっていうことをシンプルに歌にするだけで、ものすごくその方を表す歌になると思うし、それを読む人はとっても不思議で面白いと思うんです。 ーー短歌を始めるって結構勇気がいると思うんですけど、誰ひとりとして同じ感性の人っていないと思います。自分が何気なく気づいた日常が、誰かにとっては非日常であったり、その表現があったか! って絶対なるから、恐れず作ってみてほしいですよね。