情報のプロが経済ニュース初心者に、紙の“新聞”をすすめる3つの理由
「経済に詳しくなりたいなら、ネットではなく、紙の新聞で経済ニュースを読むべき」と報道イノベーション研究所の松林薫さんは主張します。お金はかかるし、アナログだし、とても便利そうには見えない、紙の新聞。しかし、忙しいエリートたちほど紙の新聞を好んで読んでいる人がじつは多いのです。なぜ新聞が情報のプロたちに選ばれているのかを検証しながら、そもそもネットと新聞のニュース作り方の違いを今回は「見出し」を例にとって解説していきます。 ネットで経済ニュースを読んでも、賢くならないのはなぜ? -------------------------- 前回述べたように、多くの人のイメージと異なり、大企業の幹部や高級官僚、政治家といったエリート層の多くは、今でも新聞を「紙」で読んでいます。こうした人々はメディア・リテラシーが高く、マスコミの情報を鵜呑みにするタイプはまずいません。にもかかわらず、一般の人以上に新聞を利用し、仕事に生かしています。これは、紙面にはネットにない情報や利点が含まれていることを知っているからです。 では、一般の人とリテラシーの高い人では、新聞の読み方にどんな違いがあるのでしょう。この連載では、様々なノウハウを紹介していこうと考えていますが、最初に1つ、わかりやすい例を挙げておきましょう。 実は、その代表的なものが「見出し」です。見出しを情報としてどこまで利用しているかは、新聞を利用し尽くしている人と、そうでない人で大きな差が出るポイントの一つなのです。
見出しだけで何のニュースか一目瞭然 ~忙しい人ほど便利~
実際に比べてみるとわかりますが、実は紙面とネットでは、同じ新聞社が流した同じ記事でも、つけられている見出しがかなり異なります。これは、紙の新聞とニュースサイトでは見出しの果たす役割が違うからです。 ネットの見出しの最大の役割は、端的に言うと「読者のクリックを誘う」ことです。これは、ニュースサイトの多くが広告を収益の柱にしているからです。前回述べたように、その典型がポータルサイトです。 このビジネスモデルでは、とにかく記事がたくさん読まれることが重要なので、読者が思わずクリックしたくなるような見出しをつけます。典型は「**が~する3つの理由」といったタイトルでしょう。この記事もあえてこのスタイルにしてみましたが、実際にネットではよく目にすると思います。 実はこの手法、新聞紙面ではあまり使われません。というのも、一般紙では見出しを「内容の要約」にすることが暗黙のルールになっているからです。「**が~する3つの理由」という見出しを読んだだけでは、読者にその「理由」はわかりません。わからないからこそ、クリックして内容を知りたくなるわけです。 しかし、一般紙の見出しは「忙しい読者が、記事の本文を読まなくても内容が理解できる」ように考えてつけられています。極端に言えば、「見出しも読み物=商品」という位置付けなのです。このため、新聞社には記事を書く「取材記者」とは別に、見出しをつける専門の「整理記者」がいます。何気なく見ている見出しですが、実はそれくらい力を入れて作られているのです。 観察すればわかるように、新聞の見出しは大きな記事だと複数付いています。業界用語では「主見出し」「ソデ見出し」「小見出し」などというのですが、それらを順番に読むと記事の概要がわかるように工夫されています。 読んでも肝心の部分がわからない「**が~する3つの理由」といった見出しは、一部のコラムを除けば新聞ではご法度です。少なくともニュースの記事につける見出しとしては不適切なのです。 このことを知っているかどうかで、新聞からの情報収集のスピードには決定的な差がつきます。実は、新聞を読み慣れている人ほど、記事の全文に目を通す比率は下がります。「新聞をよく読む人ほど記事を読まない」というのは逆説的に聞こえるかもしれませんが、実際にそうなのです。「見出しだけ読む」というのは、新聞の究極の速読法といっていいでしょう。朝刊の情報量は日によっては新書1冊分にもなりますが、これなら全ての面に目を通しても10分もかからないはずです。 そもそもビジネスの第一線にいる人というのは、例外なく時間に追われています。そうした人にとっては、短い時間でいかにたくさんの情報を得られるかが勝負です。ですから、「見出しを読んだだけでも一定レベルの情報収集ができる」という新聞の特性は、捨てがたいものなのです。 一方、同じ読み方をポータルサイトでするのは危険です。先に述べたように、クリックを誘う目的でつけられた見出しなので、「あえて読者に勘違いさせて目を引く」ものが、少なからず混じっているからです。みなさんも「面白そうな見出しなのでクリックしたけど、思ったような内容ではなくてがっかりした」という経験があるのではないでしょうか。もちろん、きちんと記事の要約になっているものもありますが、この点での正確性はあまり期待しない方がいいでしょう。