米国の「レッドライン」は……ICBM発射、足元見る北朝鮮
ロシアとともに米に協力しなくなりつつある中国
米国は今後どう対応するでしょうか。トランプ政権はさる4月中旬、つぎのような北朝鮮政策を決定したと伝えられました。 ○新政策の目的は北朝鮮の非核化であり、「政権交替」でない。 ○中国に、北朝鮮に影響力を行使することを促す。 ○北朝鮮と取引のある中国企業に制裁を加える準備を進める。 ○軍事的措置も検討する。 第4番目の「軍事的措置の検討」は今後も続けられるでしょう。常に最適の選択肢を求め続けていくわけです。 一方、中国に北朝鮮への影響力を強めるよう促すことについては、黄信号が灯りはじめました。米中間で中国企業への制裁や台湾への武器売却などをめぐって不協和音が出始めたのです。北朝鮮による実験直後に開かれた国連安保理では、中国はロシアとともに制裁の強化に反対しました。トランプ大統領はその後も中国に期待するとの発言を行っていますが、中国はロシアとともに米国に協力しなくなりつつあるのです。 トランプ大統領は、この4項目政策には含まれていませんが、北朝鮮に対してミサイル実験を控えさせるため強い姿勢を示しました。4月中旬に、空母、高性能潜水艦、爆撃機などを朝鮮半島に派遣し、「これは無敵艦隊だ」と述べるなど外交的には異例の行動に出たのです。俗な言葉では「恫喝」しようとしたと言っても過言でないでしょう。
米国の真意を“慎重に”見極めた北朝鮮
推測ですが、北朝鮮はトランプ大統領の出方に非常に神経をとがらせたと思います。一つ間違えば北朝鮮は完全に抹殺されてしまう危険があったからです。 しかし、トランプ大統領のこのようなおどろおどろしい発言は効果的でありませんでした。それから3か月近い時間をかけ、慎重に状況を見極めた結果、北朝鮮はICBMの実験をしても米国が軍事行動に出ることはない、軍事行動は米国や韓国および日本にとってあまりにも大きな犠牲となるので米国は踏み切れないと判断したのでしょう。ICBMの発射強行は、いわば米国の足元を見た形です。 その間、一時期は、米中両国が協力して北朝鮮への圧力を強めるという、北朝鮮がもっとも嫌悪する状況になりました。北朝鮮を擁護してくれる国がなくなるからです。しかしその後、両国の意見は再び食い違ってきました。この経緯は北朝鮮の判断にとって重要な補強材料になったと思われます。 国際社会の抗議を無視して核とミサイルの実験を繰り返す北朝鮮を容認することはもちろんできませんが、北朝鮮はある意味、命がけで行っている挑発行為であり、それには緻密に組み立てられた対応が必要です。米国は中国に頼るだけでなく、みずから北朝鮮と向き合い解決の道を探るべきだと思います。
------------------------------ ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹