【解説】トランプ氏とバイデン氏に明暗 米大統領選
来年行われるアメリカ大統領選挙まであと1年半。ワシントンでは早くも「またバイデン大統領対トランプ前大統領の構図になるのでは…」という雰囲気も漂い始めている。ただ、訴訟などの不安材料もありながら支持を固めていくトランプ氏に対し、再選出馬を表明したバイデン大統領は早くも逆風にさらされている。「ダークホース」であるデサンティス・フロリダ州知事の動向も交え、最新の情勢を解説する。(ワシントン支局・渡邊翔)
■「天敵」CNNに7年ぶり出演のトランプ氏、番組は大荒れ
5月10日の夜、トランプ氏が向かい合っていたのは「天敵」であるCNNテレビのキャスターだ。「タウンホール」と呼ばれる市民も交えたCNN主催の対話集会に出席したのだ。大統領時代からCNNを「フェイクニュース」だと目の敵にしてきたトランプ氏。出演は実に7年ぶりだ。 「(24年大統領選の候補になった場合、選挙結果は)公平な選挙であれば受け入れる」「もし(バイデン政権が)大規模な歳出削減をしないなら、デフォルト(=債務不履行に)させてしまえば良い」 会場に集まった共和党支持者からは、「トランプ節」のたびに大きな拍手が起きる。トランプ政権でホワイトハウス担当記者だったキャスターの質問をたびたび遮り、観客に語りかけるようなスタイルで持論を展開した。発言の中には「2020年の大統領選挙では不正があった」「ウクライナにあまりに多くの軍事支援をしているため、我々は自分たちで使える弾薬がもうない」など、”誤情報”の発信も目立った。CNNは放送直後から「ファクトチェック」の記事を掲載して対抗したものの、米メディアは、トランプ氏をゴールデンタイムの番組に生出演させたことに対し、CNNが「大惨事だった」などと厳しい批判にさらされたと報じた。
■起訴でも敗訴でも落ちない支持率…「敵」を作るスタイルが生む「トランプ引力」
9日に発表された「モーニング・コンサルタント」の調査では、野党・共和党支持者の中で、トランプ氏の支持率は何と60%。2位のデサンティス・フロリダ州知事(19%)を大きく引き離してトップを独走する。3月末に不倫の口止め料支払いをめぐって起訴された後、デサンティス氏との差はむしろ拡大。自らを「被害者」と位置づけ、「敵」と戦う姿勢をアピールして岩盤支持層を固める「トランプ・スタイル」の底力が改めて示された。 9日には、ニューヨークの連邦地裁がトランプ氏の90年代の「性的虐待」の責任を認め、6億円を超える損害賠償の支払いを命じたが、アメリカではこの敗訴の影響も限定的だとの見方が強い。今回のCNNへの出演も、「敵地」に乗り込み、戦う姿勢をアピールした形になり、米メディアは、「前回の大統領選以後のどんな出来事よりも、トランプ氏が共和党の大統領候補になる可能性を高めることになったかもしれない」と評している。 ワシントンを長年取材するアメリカのあるベテラン記者は、逆風にさらされても、そのたびに支持者に強烈に働きかけて支持を回復させてしまうトランプ氏を「磁石のようだ」と評する。「ある種の引力が、何があっても、共和党の人々をトランプに引き戻してしまうんだ」。