急成長する「ラボダイヤ」 世界のダイヤ市場に変革
(c)AFPBB News
【4月5日 AFP】きらきらと輝くダイヤモンドが二つある。しかし、そこには大きな違いがある。片方は10億年の歳月をかけて生成された天然ダイヤモンド。もう片方は人工のラボグロウンダイヤモンド、略して「ラボダイヤ」だ。 ラボダイヤは研究室で短期間のうちに作られ、値段も半額以下と安価になっている。 人工ダイヤは、市場規模890億ドル(約13兆5000億円)の世界のダイヤモンド市場に大きな変革をもたらしている。特に大きな影響を受けているのは、世界のダイヤ加工の90%を担っているインド西部グジャラート(Gujarat)州のスーラト(Surat)だ。 人工ダイヤモンドを製造する「グリーンラブ・ダイヤモンズ(Greenlab Diamonds)」は、家族3代にわたってダイヤモンドを取り扱ってきた。代表のスミット・パテルさんは「実物を見れば顧客は納得する。これが(ダイヤの)未来の形だと信じている」と語る。 人工ダイヤは、ダイヤモンドの「種」となる結晶に大きな圧力をかけて製造される。地球内部の高圧状態を人工的に再現できる圧力発生装置が使われる。 グリーンラブ・ダイヤモンズでは、原料となる種結晶から8週間でラボダイヤを完成する。天然ダイヤとの見分けはほとんどつかない。パテルさんは「同じものだ。成分的にも光学的にも同じだ」と話す。 最新のデータによると、インドのラボダイヤの輸出額は2019~22年の間に3倍に増えた。輸出量も23年4~10月に25%増えた。 ニューヨークの市場アナリストがAFPに語ったところによると、世界市場におけるラボダイヤのシェアは2018年の3.5%から、23年には18.5%に急成長した。今年は20%を超えてくる見通しだという。 一方、すでに地政学的な問題や需要低迷にあえいできた既存のダイヤモンド市場には、さらなる圧力がかかるようになった。 ■「クリーン」な石 人工ダイヤは、1950年代初期に初めて製造された。だが、技術の飛躍によって商業レベルの取引が可能となったのは、ここ10年以内のことだ。 ラボダイヤの製造業者は天然ダイヤに比べてカーボンコストが低いと主張するが、製造工程で大量のエネルギーを消費するため、環境により優しいとは言えないとの見方も強い。 一方、パテルさんは、他社では化石燃料由来の電気を使っているが、自社では地産の太陽光エネルギーを利用していると話す。 また、ラボダイヤでは「紛争ダイヤモンド」のような問題はない。 天然ダイヤの取引商は、紛争地域から産出されるダイヤモンドを流通させないようにする取り組み「キンバリープロセス(Kimberley Process)」によって国際証明書が発行されていると主張するが、人工ダイヤメーカーはそうした問題はそもそも皆無だと口をそろえる。 こうした環境や人権への配慮を背景に、婚約指輪にラボダイヤが選ばれるケースも増えている。 業界アナリストのエダン・ゴラン(Edahn Golan)氏によると、天然宝石の取引額で米国で2023年2月に販売された婚約指輪の17%がラボダイヤを採用していた。現在では36%程度になっていると同氏は推計する。 ■天然ダイヤ市場に逆風 インドの宝石宝飾輸出促進評議会(GJEPC)によると、23年4~10月に輸出されたラボダイヤは前年同期比42%増の計404万カラットだった。 一方、天然ダイヤの取扱業者は同時期、計1130万カラットの減少を報告した。 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)期には、富裕層がロックダウン中の生活を彩ろうと天然ダイヤの取引額が増加したが、経済活動が以前の水準へと回復するにつれ需要が弱まり、大手業者は高価な宝飾品の在庫を過剰に抱え込んだ。 ダイヤモンド産業最大手デビアス(De Beers)が認定する原石バイヤー(サイトホルダー)の一つ「D・ナビンチャンドラ・エクスポーツ(D.Navinchandra Exports)」の取締役の一人、アジェシュ・メフタ(Ajesh Mehta)氏は、この時期の落ち込みは過去30年で最悪だったと語る。 その背景には、ラボダイヤという強力なライバルの存在以外にも、米中経済の鈍化やダイヤモンドの供給過剰、ロシア産ダイヤ原石に対する制裁といった要因があった。 こうした中、GJEPCは昨年10月、ダイヤモンド原石輸入の一時停止勧告を業界に向けて発信した。 インドのサイトホルダーのうち少なくとも5社はAFPに対し、デビアスが昨年、最初の原石販売会(サイト)で販売価格の見直しを行ったと述べた。さまざまなカテゴリーの原石で、10~25%の価格引き下げがあったという。これは米国のホリデーシーズン後、バイヤーが在庫を補充するタイミングだった。 ■独占市場ではない ラボダイヤ業界が直面している問題もある。製造量の急増と、それによる価格の大幅下落だ。 ラボダイヤの卸値は23年だけで58%下落した。スーラトの小売業者はAFPに、低品質のラボダイヤ1カラットの小売価格は、22年には2400ドル(約36万円)だったが、23年には1000ドル(約15万円)をわずかに上回る程度にまで落ち込んだと話す。 昨年10月には、米国第2位のラボダイヤ製造業者「WD・ラブグロウンダイヤモンズ(WD Lab Grown Diamonds)」が破産申請を行った。 しかし、パテルさんは「ラボダイヤ市場は独占状態にないため、価格の下落は予想できていた」とし、今後は需要が高まると楽観的だ。 インド・ムンバイの宝飾店では買い物客からも、この見方に賛同する声が聞かれた。 店を訪れていた女性(29)は「天然ダイヤでは値段が5倍以上もする」と言い、「普段使いで身に着けたいなら、ラボダイヤがうってつけ。とてもいいと思う」と述べた。 映像は2月に撮影。(c)AFPBB News