漆の実から搾った「うるしろうそく」＝七尾市一本杉町の高澤ろうそく店仮店舗

　能登半島地震で損壊した輪島市の建物から「救出」された漆の実が、七尾伝統の和ろうそくに生まれ変わった。七尾市一本杉通りの老舗・高澤ろうそく店が13日、今年も独自商品「うるしろうそく」を完成させた。同店に実を提供してきた漆かき職人の自宅が全壊したが、漆の実は奇跡的に無事で、高澤久社長（51）は「復興の灯にしたい」と能登再興の願いをろうそくに込めている。 　うるしろうそくは、輪島産漆を使った漆器づくりを進める「輪島漆再生プロジェクト実行委員会」と協力し、2016年に開発した。輪島市の漆かき職人が毎年秋から冬に収穫した実から蝋分（ろうぶん）を抽出し、ろうそくを生産してきた。 　元日の地震で1892（明治25）年創業の高澤ろうそく店は屋根が崩れ、土塀がむき出しになった。ただ、幸いにも市内の別の場所にある工場に大きな被害はなかった。ろうそく製造に必要な木型や金属型、機械は使える状態で残り、3月14日には店舗から約200メートル離れた建物に仮店舗を構え、営業を再開した。 　輪島市の漆かき職人から「漆の実は大丈夫やった」と聞いたのは4月だった。輪島塗の復興に少しでも役立てればと、うるしろうそくの生産を決断。昨年秋から冬にかけて収穫された約180キロの実から蝋分を抽出し、高さ約8センチのろうそく2千本ができた。 　和ろうそくは主にハゼの実が原料になっている。漆の実を使ったろうそくは江戸時代に米沢藩（山形県）で試作した記録が残り、温かみのあるだいだい色の炎がゆっくりと燃えるのが特徴という。 　高澤ろうそく店は明治期に2度の大火を乗り越えており、前社長の良英さん（77）とともに3度目となる店舗の再建を進める高澤さんは「いろいろな思いを込めた特別なろうそくになった。能登の復興を願い、先祖や生きていることにも感謝してもらえればうれしい」とろうそくを見詰めた。