玄海原発2訴訟大詰め 控訴審で福岡高裁が上岡直見氏の証人尋問認める
佐賀県の玄海原発(九州電力)をめぐり市民が起こした二つの裁判が福岡高裁で大詰めだ。一つは2011年12月、九電に全基運転差し止めを求めて起こした裁判、もう一つは13年11月に国に3・4号機の設置許可処分の取り消しを求めた行政訴訟だ(ともに1審は原告敗訴、21年3月控訴)。(※1) 7月3日に開かれた第11回全基差し止め訴訟では「さがUDトークサークル」(※2)代表の古賀道子さんが意見陳述を行なった。古賀さんは幼少期に兄を小児結核で亡くしたことで受けた予防注射で薬害難聴になり失聴。約20年前から人工内耳をつけて暮らす。陳述では、東日本大震災で聴覚障害者の死者数が他の障害者の2倍になった例のほか、就寝時に人工内耳を外す自分は地震発生時には消防車やパトカーの音も聞こえずに逃げ遅れるかもしれないという実情を説明。「今日死ぬかもしれないことを覚悟で毎晩就寝しています。不安な日常を減らすためにも原発を止めるべき」と訴えた。 また、今回は裁判所が、原告らが申請していた環境経済研究所代表・上岡直見氏の証人尋問を認めた。運転を差し止めた東海第2原発裁判や本控訴審で意見書を提出した同氏の尋問が次回実現する。 その後、同日に開かれた第10回行政訴訟では原告団の武村二三夫弁護士が、国が用いる基準地震動の計算式が不十分であることや、地震の起こる確率にばらつきがあるにもかかわらず、九電(この訴訟では参考人)が設置許可申請を出す段階で、そこへの考慮をしていなかったことなどを指摘した。 なお、昨年「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」が、同原発事故時の避難先3県の39自治体に対し実施したアンケート調査(回答率95%)では、玄海地域での緊急時対応の防護措置の詳細について「知らなかった」と答えた自治体が約半数もあることが明らかになっている。 ※1 次回弁論は10月2日で、行政訴訟が14時30分に、全基差し止め訴訟が15時にそれぞれ開廷。 ※2 UDトークは話し言葉を音声認識で文字変換するアプリ。
稲垣美穂子・フリーランスライター