「一緒に投資重視」特集・デルタ航空が考える日本戦略
「アジア路線でキャパシティーが一番大きいのが日本であり、最重要市場だ」。来日したデルタ航空(DAL/DL)のジェフ・ムーモー太平洋地域担当副社長は、日本市場の重要性をこう表現した。 【写真】個室ビジネスクラスを採用したデルタ航空のA350-900 2020年3月28日の運航を最後に成田空港から撤退し、悲願とも言える東京発着便の羽田一本化を実現。羽田には米国外で唯一となるマイレージ会員向けの自社ラウンジ「デルタ スカイクラブ」を2022年7月29日にオープンした。米系航空会社で羽田にラウンジを構えているのもデルタのみだ。 一方、ユナイテッド航空(UAL/UA)は全日本空輸(ANA/NH)、アメリカン航空(AAL/AA)は日本航空(JAL/JL、9201)と組む。航空連合のスターアライアンス、ワンワールドの加盟社と提携することで、日本の国内線とのコードシェア(共同運航)や、運賃や運航スケジュールを一体的に決めるジョイントベンチャー(JV、共同事業)を展開するなど、利用者の利便性向上を図っている。 羽田の自社サービスを充実させるデルタは、日本にスカイチームの加盟社がなく、パートナーがいない現状をどのように考えているのか。ムーモー氏に聞いた。 ◆一緒に投資 「常に提携事業者は探しているが、共同事業を行うとなれば、一緒に投資することを重視する。どのパートナーと組んでも、カスタマーエクスペリエンス(顧客満足)は充実しなければならない」とムーモー氏は語る。 デルタはソウル・仁川国際空港を拠点とする大韓航空(KAL/KE)と、2018年5月1日から太平洋路線の共同事業(JV)を実施。仁川ではチェックインも一体的に行うなどの協業を進めている。マイレージプログラムの統合など、ムーモー氏が指摘するように、利用者が恩恵を得られる提携を実現する上で、システム投資は不可欠だ。 2015年1月にスカイマーク(SKY/BC、9204)が経営破綻した際は、デルタも支援に名乗りを上げたが、ANAを傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)や日本政策投資銀行(DBJ)などの計画案を債権者が支持。スカイマークは2022年12月に東京証券取引所へ再上場を果たしている。 スカイマークは第三極として、大手2社とは一定の距離を置いているものの、ANAHDの出資を受けており、アライアンスが異なるデルタと即座に提携することは難しい。また、2015年当時に関係者を取材した際、デルタ側が求めるシステムとスカイマークのものとは距離がある点を指摘する声も聞かれた。 ◆日本の地方需要は仁川経由 ムーモー氏は「仁川ではデルタと大韓両方のスタッフが働いており、フライトも常にモニタリングしている。何かが起これば両社で協力して解決している。羽田でもデルタが大韓のハンドリングを受託している」と、緊密な連携を図っていることを強調した。 また、デルタのスマートフォン用アプリで大韓航空の便もチェックインできることを例に「これを実現するには両社で投資が必要。提携事業者はこうした投資も必要だ」(ムーモー氏)と、運航面だけでなくシステムへの投資も一体的であることが重要だという。 米国外唯一の自社ラウンジなど、羽田へ積極投資するデルタ。羽田からは米国本土5つのハブ空港となるロサンゼルス、シアトル、ミネアポリス、デトロイト、アトランタと、ハワイのホノルルへ路線を張り、同社によると米国への渡航需要の95%以上をカバーしているという。 デルタの機材では最大サイズとなるエアバスA350-1000型機も、羽田を含むアジア太平洋路線に2026年以降投入する計画だ(関連記事)。 一方、日本の国内線を運航する航空会社の中から提携相手を探すとなれば、巨額のシステム投資を負担できる体力も不可欠であり、コロナ影響下から回復途上の今、すぐにパートナーが見つかるとは言いがたい。 太平洋路線で協業する大韓は日本の地方都市へ乗り入れ、自社のハブ空港である仁川に集客して世界各地へ送客している。デルタは当面、日本の地方都市の需要は大韓の仁川経由、最大の需要が見込める首都圏は自社の羽田路線、という戦略を取り続けることになりそうだ。
Tadayuki YOSHIKAWA