「白樺工芸品」消えゆく瀬戸際 長野県指定の伝統的工芸品 わずかに残る職人の技術・記録どう残すか
21品目のうち3品目
県が指定する県内の伝統的工芸品21品目のうち、3品目の産業実態がほぼなくなっていることが分かった。木彫の登山人形に端を発する「白樺工芸品」(主要産地は松本市など)と、それぞれトチノキ、キリの木を主な材料とした「秋山木鉢」(同下水内郡栄村)、「桐下駄(げた)」(同)で、いずれも核となってきた生産者らの組合は既に解散。関係者によると職人は亡くなるか、高齢で引退している。その他にも職人がわずかに残るばかりの伝統的工芸品があり、高い技術や記録をどう後世に伝え残すか、崖っぷちに来ている。 栄村秋山郷の「秋山木鉢」「桐下駄」
ここにしかない技術もあった。残念
「『歴史のために』と、職人さんが置いていってくれたものです」。10月中旬、松本市元町1にある老舗の土産物卸、有限会社青木昌平商店。青木寛治社長(77)が本社奥の倉庫の中から、腰丈ほどの高さがある額を持ち出した。白樺工芸品で「遠近額」と呼ばれた作品群の秀作だ。
梁(はり)の下に土間と小上がりが広がり、いろりの上につり下げた自在鉤(かぎ)、土瓶…。厚さ10センチほどの額の中に、昔ながらの日本家屋の空間が緻密な木彫りで、奥行きをもって表現されている。奥に行くほどすぼまって見えるのは、遠近法が使われているため。託されたのは20年ほど前という。
1947(昭和22)年10月には、昭和天皇が県内巡幸の際に買い求めた遠近額。青木社長によると、作れる職人はもういない。記者に作品を見せながら、「これで少しは日の目を見られる」と言った。
往時は海外へも 流行の変化にのまれ
県独自の伝統的工芸品指定制度が発足した82年、第1陣として指定された6品目のうちの一つが白樺工芸品だった。大正時代、登山客向けにシラカバ材に登山者の姿を彫った「登山人形」やつえが、発展したとされる。
時代を追うごとに商品は多様化。ライチョウ、カモシカの木彫品をはじめ、素朴ながら芸術性の高い額類も花形商品になった。額類には遠近額の他に、シラカバの皮を貼り付けて山並みや松本城の風景を表した「天地貼(ばり)」などもあった。シラカバの伐採、皮の採集、額の作製など役割ごとに従事者が分業した。