<映画評>“シング・ストリート”不況のダブリン 若者はロンドンをめざす
アカデミー賞歌曲賞を受賞した『ONCE ダブリンの街角で』(2006)と観客の口コミが大ヒットにつながった『はじまりのうた』(13)のジョン・カーニー監督の最新作にして半自伝的作品『シング・ストリート 未来へのうた』が9日から公開される。 1985年の大不況下のアイルランド首都ダブリンを舞台に繰り広げられる音楽を通じた少年の青春と恋の成長ストーリー。父親の失業によって学費の安い公立学校への転校を余儀なくされたコナーはどん底の生活の中、前触れもなく訪れた初恋や仲間とのバンド活動の日々が描かれている。
この映画全体を貫いているのが、80年代の懐かしいUKロックの名曲たち。コナーたちのバンドのオリジナル楽曲は、80年代の微妙に移り変わる音楽やファッションのテイストが盛り込まれ、当時を知る者には懐かしさと親しみ、知らない者には色褪せない斬新さを見せつけてくれる。決して凝ったストーリー展開ではないが、バンド結成から曲作り、日々の練習をはじめ、プロモーション・ビデオ(PV)を作る過程が、夢を一緒に追いかけるようでワクワクする。 コナーを演じる新人俳優、フェルディア・ウォルシュ-ピーロ(16)は、同作品での主役募集のオーディションで監督からの絶大な支持を受け合格。歌は幼い頃から学んでいて、オペラ『魔笛』への出演経験もあるという。 プロのアーティストたちがライブ映像だけではなく、PVをテレビでオンエアするのが主流となったのもちょうどこの頃だ。兄・ブレンダンはコナーの音楽の良きアドバイザーで、鋭い音楽評と「ロックやるなら笑われる覚悟をしろ」「フィル・コリンズを聴くやつを女は好きにならない」などロックな格言が頼もしい。 お金がなくたって、家庭崩壊寸前でも、クラスメイトや教師による暴力があってもネガティブになるどころが、それを突き進む原動力にしてしまうコナーがすがすがしい。音楽の力で、愛の力で、憧れのロンドンをめざせるのか?