『きのう何食べた?』田中美佐子&矢柴俊博も最高の夫婦 視聴者にも届く“幸せのお裾分け”
人気漫画家・よしながふみの同名コミックが原作のドラマ『きのう何食べた? season2』(テレビ東京)。第11話では、内野聖陽演じる矢吹賢二(以下、ケンジ)が、西島秀俊演じる筧史朗(以下、シロさん)の料理仲間である佳代子(田中美佐子)と対面する。第11話は、ケンジにずっと会いたがっていた佳代子と富永さん(矢柴俊博)の反応が魅力的に感じられる回だった。 【写真】こちらまで笑顔になってしまう、笑顔あふれる富永さん夫婦(矢柴俊博・田中美佐子) 物語冒頭で、シロさんと航(磯村勇斗)は、小日向(山本耕史)や富永さんが所属するテニスサークルの試合を観戦する。本当は富永家で食事会をする予定だったのだが、富永さんのギックリ腰で中止となってしまった。佳代子と富永さんは、ケンジに会えず悔しがるも、佳代子が思いがけない場面でケンジと初対面を果たす。 「スーパーアキヨシ」にて、シロさんに聞いた通りの見た目の男性が「シロさん」と呟いたのを見て、佳代子は確信する。目の前にいるケンジに胸を弾ませ、目を丸く見開いたり、「ビンゴだわ」と小さく拳を握ったり、心の中で「ケンジ~!」と声をあげる佳代子の姿は面白い。とはいえ、佳代子は緊張のあまり、ケンジに声をかけることができず、逃げるようにしてその場を立ち去る。自宅に戻った佳代子は、興奮冷めやらぬ様子でケンジと会ったことを夫に報告する。 ケンジを前にした途端、何も言えなくなってしまったと悔やむ佳代子に、富永さんは少し咎め立てる様子で「そんなの、筧さんと半分こ仲間の富永です、で通じるじゃないの~」と言った。佳代子がケンジと話すきっかけを逃したことがよっぽど悔しかったのか、富永さんは「あ~、ケンジと話せるチャンスだったのに~」と子供のように地団駄を踏んだ。 佳代子の反応も富永さんの反応もコミカルだが、演者である田中美佐子と矢柴俊博の演技はどこか自然体で、わざとらしさは感じられない。富永夫妻は普段からこうやって会話をしているのではないか、 普段から話したことのないケンジの姿を一緒になって思い浮かべているのではないか、田中と矢柴の演技はそんなことを感じさせてくれる。 特に、富永さんがケンジと念願の初対面を果たした場面での矢柴の演技は、富永さんの人物像を特徴づけている。社交的だがやや無神経で、けれどあっけらかんとしていて嫌味がない、そんな人物像を可笑しみに満ちた演技で見せてくれる。シロさんとケンジの到着を人一倍ソワソワして待つ姿は妙に現実味があって面白いうえ、富永さんが心を弾ませていることが分かる。富永さんはケンジが来るや否や「あなたにずっと聞きたいことがあったんですよ」と身を乗り出すと、「筧さんは、あなたとどうやって知り合ったの?」とワクワクした顔つきで聞き出した。富永さんの発言には遠慮がないが、矢柴のにこやかな表情と明るい声色から、富永さんに悪気が一切ないことは十分に伝わってくる。何より楽しそうな富永さんは早々にケンジと打ち解けていた。 ケンジは、富永さんのややあけすけな言動を通じて、自分のことを深く思うシロさんの一面を知る。佳代子が何気ない様子で、ケンジには見せないシロさんの一面について話すのもぐっときた。「筧さんと買い物してる時、あなたの話ばっかりしてるから」「ニッコニコで言うんだから」と佳代子は明るく打ち明ける。佳代子が満面の笑みを浮かべ、シロさんの胸の内を飾り気なく語ることで、ケンジと過ごす何気ない日々をシロさんが何よりも大切にしていることが際立っていた。「幸せもお裾分けしてもらってるって感じかなあ」という佳代子の言葉は、視聴者の胸にあたたかく響いたことだろう。 第11話では、航の反応も魅力的だった。航はシロさんが持ってきたお弁当に「完全にお母さんが自分のために作ったお弁当じゃん」とケチをつけるのだが、じゃことごぼうの混ぜご飯を美味しそうに頬張ると満足した笑顔を見せ、憎めない。“ミラクルショット”を打つと「ねえ、筧さん、見た?」と少しはしゃいだ様子を見せるのがかわいらしい。ひねくれた性格の航は、恋人である小日向やシロさん、ケンジに対しては言いたい放題、わがまま放題だが、嬉しかったり楽しかったりすると少し素直になる。そんな航が、自分たちのいない間に佳代子と富永さんがケンジと会ってしまったことに拗ねた時の台詞がまた愛おしい。 「ずるいよ。俺、みんなで会うの楽しみにしてたのに」 “みんなで会う”という言葉から、富永家の食事会を誰よりも楽しみにしていたことが伝わってくる。微笑ましい場面だった。
片山香帆